writer : techinsight

野田秀樹、『赤鬼』『農業少女』タイ・ヴァージョンの衝撃度。

大竹しのぶ主演『ザ・ダイバー』の大盛況が記憶に新しい東京芸術劇場(池袋)。その『ザ・ダイバー』の演出を手がけ、みずからも出演した人気演出家の野田秀樹が、過去10年以上タイの演劇界と親交を深めて来た事はあまり知られていない。東京芸術劇場の初代芸術監督に就任し、その就任プログラムに於いて上演される『赤鬼』『農業少女』のタイ・バージョン。11月19日(木)〜23日(月・祝)これらは、アジアの現代演劇に影響を与えた貴重な作品だ。

今や演劇界やその他芸術をリードしていく存在となった野田秀樹は、近年テレビ・スターに頼ることの多い演劇界の失速を憂い、演劇界で育ったクリエーターに主導権を再び持たせる事に力を注いでいる。小さな演劇でも、国内外かまわず良いものは、多くの人に見てもらいたい。そんな思いから、今回の上演に至った。

タイの演出家たちによりリメイクされる野田作品の『赤鬼』『農業少女』は、本家とは一味ちがう作品に仕上がっており、“哀しいまでに美しい”と評された『赤鬼』は、浜辺の村に流れ着いた異形の“鬼”をテーマにした美しい物語。バンコク公演以外でも再演され、タイの演劇界に大きな成長をもたらした。『農業少女』は、都会に憧れ、農村から大都会へ向かう少女のお話。来年同劇場で日本版(主演:多部未華子)が上演される。

ハイレベルな演出力を要する野田作品を外国人が理解し、その世界を作っていく事は容易な事ではない。今回のタイ・ヴァージョンではタイの伝統を打ち破った現代演劇の中に、野田秀樹が元々持つシニカルさや絶望感、怒りなど、日本の演劇でしか表現しにくい面も、実に優美に表現している。見ればきっと、その衝撃度に驚かされるであろう。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)