イスラエルのバイオリニストであるNaomi Elishuvさんは、20年前から自分の意思に反して手や足が震えてしまう本態性振戦という病気を患い、最近では演奏することすらままならない状態であった。このたびテルアビブの病院で治療のための手術が行われたのだが、執刀医がElishuvさんにある依頼をしたことが話題となっている。
今回行われた手術は、本態性振戦をはじめパーキンソン病やジストニアなど不随意運動が対象となる、脳深部刺激療法(DBS)と呼ばれるものだ。手術は前頭部の皮膚を切開し、ドリルで頭蓋骨に小さな穴をあけて目標部位に刺激電極を挿入する。電極挿入後は試験刺激を行って効果を確認するのだが、手術は局所麻酔で行われるため患者には意識があり、医師が患者と話し刺激の効果を確認しながら進めるのが一般的である。
だが、手術を担当したIzchak Fried医師がElishuvさんに依頼したのは、手術中にバイオリンを演奏してもらいたいというものであった。これについてFried医師は、「刺激電極が正しい箇所に埋め込まれたか、また重要な脳の部分が手術中も機能するのかどうかを確認したかったため」と説明している。
手術は無事成功、術後にFried医師は「我々がElishuvさんの脳に刺激を与えたところ、震えが無くなったことが確認され、Elishuvさんはモーツァルトの曲を演奏することができました」と話す。
この手術の様子は10日、YouTubeにて“Violinist undergoes DBS”というタイトルでアップされた(画像はそのサムネイル)。手術前の演奏は音が出ているといった程度だったが、手術直後に行われた演奏は驚くべきことに弱々しいながらもメロディーを奏でており、手術前とは明らかに違うことが分かる。
手術によって震えがなくなったことはElishuvさん自身も実感しており、「この手術について聞いた時、ためらわずにすぐに受けていればよかった。でもこれからは震えることなく演奏も、文字を書くことも、お茶を飲むこともできる。私の人生がまた戻ってきたんです!」と感激している。
(TechinsightJapan編集部 椎名智深)