writer : techinsight

【3分でわかる】テルマエ・ロマエ

 忘れた頃に復活の「マンガ大賞2010」ノミネート作品紹介。今回はコミックビームで連載されている「テルマエ・ロマエ」だ。

 舞台はローマ帝国、ハドリアヌス皇帝の御世。主人公「ルシウス」は持ち込んだ公衆浴場のアイデアを受け入れてもらえずくさっていた。彼を励ますべく友人「マルクス」が風呂に誘う。ルシウスは気乗りせぬまま同行するも浴場の騒々しさに耐えかね、湯船に頭まで浸かって静寂を楽しんでいた。

 そこでふと目に留まった排水溝。仕組みが気になり恐る恐る近づいたところ、強烈な吸引力がルシウスの体の自由を奪う。溺れかけるも必死に湯から顔を出すとマルクスの姿がなく、その代わりに“平たい顔”の民族が心地よさそうに浸かっていた。そう、現代の日本の銭湯である。

 正直な感想を述べると、これはすごい作品である。まるで小学生のような感想だが、本当にすごいの一言だ。私のような若輩者にとっては何もかもが新しすぎる。

 一言でいえばタイムトラベルものである。これまでに幾千幾万と描かれてきたジャンルをこれほどまでに斬新な切り口で描けるとは。古代ローマの風呂から現代日本の風呂へ、時空を駆けるルシウス。ここで当然気になるのが、なぜ風呂かというところだ。

 タイムトラベルにおいて必須となるのがトリガー。有名どころではネコ型ロボット所有の道具や、ラベンダーの香り、落雷などが挙げられるが、この作品ではそれが風呂である。なぜ風呂なのか。それはこの作品が風呂ありきだからだ。

 ルシウスは仕事で煮詰まると風呂に行き、そこから日本の風呂へ“飛ぶ”。飛んだ先でさまざまなアイデアを拾い、戻ってきてはそれを仕事に生かすのだ。最初から最後まで風呂づくしであり、その濃度は風呂漫画と呼んでもいいほどである。

 古代ローマの彫刻を思わせる全裸の男性が立ち尽くしている表紙。よく見れば右手には桶、左手にはタオルを持っており、帯には「超時空お風呂スペクタクル!!」と書かれている。どうしてこうなった、としか言い様がない雰囲気なのであるが、実際に読んでみれば作品のすべてを隅々まで再現したパッケージであることがわかる。

 インパクトのある表紙がなんとなく気になってパラ見しただけでは本質は伝わってこない。きちんと読みふけることで初めてギャグ漫画だということがわかる。作中にツッコミ役がおらずルシウスがボケ倒すという、最近のギャグ漫画では珍しい形となっているためだ。ひょっとしたら作者であるヤマザキマリ氏はギャグのつもりでは書いていないのかも、と勘ぐってしまうほど笑いに関しては不親切である。だが、そこがいい。

 あまりにエキセントリックなため、受賞は難しいかもしれない。しかしたとえ記録には残らずとも、確実に記憶に残る作品である。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)