writer : techinsight

いざというとき役に立つ?立たない?“護身術”で本当に身は守れるのか?

物騒な事件が後を絶たない。先日、千葉県で元交際相手を連れまわし、その母親を殺害した男が逮捕された。昨今、こうした逮捕監禁、暴行などの事件や、ストーカーや痴漢などが多発していることから、自分の身を守るために護身術や武道を学ぶ女性が増えている。また、日頃の運動不足やストレスを解消するために、格闘技を学ぶ人も多いという。
しかし、いくら護身術の「型」を覚えても、いざという時、焦ったり、恐怖心が勝ってしまえば、凶悪犯の前には為す術がないのではないか。
そこである道場に取材を申し込んだ。「護身術は本当に役に立つのでしょうか?」単刀直入に聞いてみた。

今回我々の取材に応じてくださったのは、東京・文京区の
「武道稽古場 生雲(いくも)」の創設者で総主の岩城田(いわき・でん)氏だ。この日の東京の最高気温は33度。うだるような暑さだが、生徒は一人もサボることなく練習に打ち込んでいる。

―――ズバリ単刀直入に伺います。護身術は本当に役立つのですか?

岩城氏は少し悩んだ後、語った。
「率直に言うと、誰しもが『何に役立つのかな?』と一度は疑問にぶつかると思います。」

現在、「護身術」を学べる場としては、武道や格闘技の道場がある。いずれも型や約束稽古といった前提稽古が中心で形骸化しつつあるという。また、一般的な格闘技は体力、運動神経に依存する傾向があり、運動が苦手と言う人にはあまり効果が望めない。そのため、実践の場で利用することは難しい。

では、「生雲」には他の武術や格闘技とどのような違いがあるのか。岩城氏は、「本人との相性が重要」と断った上で、次のように話す。
『生雲』では、身体能力や技術にはあまり重点を置いていません。年配の人や女性など、誰でも気軽に取り組めるのが特長です」

「武道稽古場 生雲(いくも)」は2005年に東京・文京区に開かれたのだが、現在、下は20代から最高で67歳までの生徒がおり、創立以来一人の退会者もいないという。その魅力はいったい何か。

「生雲」に入門した人は、以前どこかで空手や柔道などをやっていた人が多い。生徒からは「以前の所では自分の思い浮かべていたイメージと違ったので辞めた。自分にしっくりくるものを求めてたどり着いた」という声が挙がっている。

また、最近は女性の生徒も増えている。女性についてはいずれも初心者からのスタートで、入門のきっかけは好奇心だという。
生徒たちは口々に「『生雲』のサイトを見て、やってみようと思った」「やり始めたらとにかく面白くて、続いている」と、「生雲」の魅力について語っている。

女性の中には武術や格闘技について「ケガをするのではないか」「痛そう」と抵抗を持つ人も多いだろう。しかし「生雲」では本人ができないようなことや、全員一律のトレーニングを課すなど無茶を要求はしない。

では、「生雲」に入門したら具体的にどんなことをして、何ができるようになるのか。そこが気になる人も多いだろう。再び、岩城氏に訪ねた。

―――先生、「生雲」に入門すると、まず何から始めるのですか?

「まずこれから始める、という決まったものはありません。
『生雲』に入門される方は年齢や経験、入門目的などは皆それぞれ異なります。ですから、その人によって内容を決めていきます」

 岩城氏によると、具体的にやる内容は個別にプログラムを組んでいくが、全員に共通することは、「要らないことをやめていくこと」だという。入門する人の中には、技術を追求していきたいとか、体を鍛えて強くなりたいといった動機を持って来る人もいるそうだが、そうした欲求は時に不満や葛藤、恐怖へと変わり、人を自縄自縛してしまうのだ。「生雲」のコンセプトは「自由と調和そのものであること」。余計な思考の桎梏から解き放たれ、自然体になることを追究しているのだ。

言葉では表現し得ない達成感や充実感がそこに生じるのであろう。
「生雲」では無用な段位を設けておらず、「何段にまで上った」という指針はない。しかし生徒からは「仕事面や生活面において、余計な事を気にしなくなった」「表現しづらいが、自分のこだわりから解き放たれ、ありのままに物事を見られるようになった」といった心境の変化や、「夫婦仲が良くなった」「『生雲』で習ったことが鍼灸の仕事に活かせる」という声が挙がっているという。もちろん、本格的な武術であるため、「体格の良い若者に因縁をつけられ絡まれたが、相手を圧倒し、暴行を未然に防いだ」「長年腕相撲で勝てなかった弟に連戦連勝した」といった効果も出ているようだ。

岩城氏は「見学させてくれという声はあり、受け入れているが、見ただけでは何も分からないと思う。実際に体験して初めて信用できるようになるのでは」と話す。やはり、百聞は一見に如かず、だ。

パソコンの前でこの記事を読まれているそこの貴方、まずは道場に足を運んでほしい。それでもまだ腰が重い…という人には朗報だ。「生雲」では現在入門月の月会費を無料とするキャンペーンを開催しており、8月末までに入門すると、入門月の月会費、最大1万円が無料になるという。

取材をしていて、岩城氏は穏やかな口調の中にも、言葉の一つ一つに芯があるという印象を受けた。今回、「護身術は役立つのか?」というテーマで取材したが、その命題自体が愚問であることに気付かされた。あれこれと考えすぎず、自然体であること。それこそが自分自身を最も強くしてくれる要素なのかもしれない。

■武道稽古場 生雲
 事務局:東京都文京区大塚4-22-7-104
 練習日程:日曜日 (本稽古) 19:00~21:00
      曜日変動(本稽古) 19:00~21:00

(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)