母が遺したメッセージを流して聞かせた。電話口でジンさんは、まるで母がすぐそばにいるように会話をし常に明るく振舞った。
しかし祖母は必ず、こう聞いてきた。
「なぜコンロンは私を訪ねて来ないんだい?」
胸を痛めながらもジンさんは、嘘に嘘を重ねてその場をしのいできた。しかし数か月経つとそれも限界に達し、ジンさんは新聞に「こんな人を探しています」と投稿すると、母と似た声を持ち、西安訛りのマンダリン(中国の標準語)を話すチェン・ウェイピンさん(Chen Weiping) を探し当てた。ジンさんはウェイピンさんにコンロンさんの代わりになってもらい、祖母に電話をしてもらおうと考えたのだ。
ウェイピンさんは当時のことを「ジンさんから事情を聴いて、胸が締めつけられました。そしてジンさんからコンロンさんの人生や家族について書かれた10ページにわたる書類に目を通し、彼女の依頼を引き受けることにしたのです」と振り返る。
こうして心の準備が整うと、ウェイピンさんはジンさんの祖母に電話をかけ、こう聞いてみた。
「母さん、元気だった?」
しかしジンさんの祖母はそれが自分の娘であることを疑い、「あなたは誰なんだい?」と何度も聞いてきたそうだ。しびれを切らしたジンさんが「母は今、風邪を引いているのよ」と電話に出ると、ようやく納得したようだったという。
ウェイピンさんはその後、娘として事あるごとに電話をし、ジンさんもまめに祖母を訪ねて「母は元気よ」と伝えてきた。そうしていつの日か、母コンロンさんが亡くなって13年の月日が流れていた。
ウェイピンさんは電話口での会話について、「誕生日などには必ず電話をしましたよ。『心臓の手術をするから、しばらくは行けない』と伝えると、『私のことはいいから、自分の身体を気遣いなさい』と言われたこともありました。亡くなる少し前には、『今は会いに行けないけど、母さんはまだまだ元気だから大丈夫ね。ただ100歳の誕生日には、這ってでも会いに行くわね』と約束をしたのですよ」と苦しい嘘を重ねたことを明かした。
ジンさんによると、祖母が楽しみにしていた100歳の誕生日には孫や親戚が一堂に会したが、祖母はどことなく寂しそうだったという。
「祖母は口には出しませんでしたが、母が姿をみせなかったことで落胆していたのは一目瞭然でした。でも私は、母がすでに亡くなっていることを言う勇気は最期までありませんでした」とジンさん。祖母は100歳の誕生日から2か月後に息を引き取り、最期まで「娘は生きている」と信じていたという。
ジンさんは今年3月、中国のテレビ番組に出演し「嘘をつくのは決して楽ではありませんでした。でも私は祖母にとって最善のことをしたと思っています」と涙ながらに語り、亡き祖母と母の2人を偲んだ。
画像は『Oddity Central 2021年6月30日付「Woman Recruits Someone to Lie to Her Grandmother for 13 Years, Out of Kindness」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 A.C.)