国民的アイドルグループAKB48は昨年末にレコード大賞を受賞したが、その時に彼女達が涙して感激する様子は尋常ではなかった。新年に放送されたテレビ『中居正広の金曜日のスマたちへ』ではその涙の真相に迫ったのだ。そこには凄まじいまでのAKB48の歴史が明かされていた。
今やAKB48の人気は誰もが認めるところだろう。しかし、彼女達がアイドルグループとして広く知られたのは、楽曲「ポニーテールとシュシュ」あるいはそれ以前の紅白で披露した「RIVER」がヒットした頃ではないだろうか。
そんな彼女達が昨年、2011年には「Everyday、カチューシャ」など5曲で軒並みミリオンヒットを飛ばしてCD売上不振と言われる時代に異例の記録を残したのだ。その楽曲のひとつ「フライングゲット」は2011年12月30日に念願のレコード大賞を受賞した。観客席で待機していたメンバーが、発表と同時に泣き崩れそうになるのを支え合いながらステージに上る姿が印象的だった。
年が明けて2012年1月6日に放送された『中居正広の金曜日のスマたちへ』では、その時のAKB48が流した涙のワケを探った。そこにはAKB48がデビューしてから乗り越えた苦難の数々と、総合プロデューサー秋元康が彼女達に託す思いが映し出されたのである。
『会いにいけるアイドル“AKB48”』を思いついた秋元康が出した募集広告を見て、前田敦子、板野友美、高橋みなみ、小嶋陽菜などがオーディションを受けて合格した。しかし、ほとんどのメンバーが素人で歌や踊りをイチからはじめ、なんとか形になり劇場オープンにこぎつける出だしだった。この時が2005年12月8日のことである。
そんな彼女達にはどこからともなく「パンツ見せ集団」などの声が聞こえてきた。観客もなかなか増えず、メンバーは立ち位置によっては観客が見えず空っぽの客席に向かっているような状態となった。板野友美は「お客さんも見えないのにどこに手を振っているのだろう」と思いながら歌い続けたという。前田敦子は「“いつ辞められるんだろう”と誰もが口にしていた」と当時を振り返る。
秋元康の「僕を信じてついて来てください」の言葉を頼りに、そんな厳しい状況でも頑張るAKBに2007年の紅白出場の朗報が届いたのだ。しかし、喜びも束の間だった。「アキバよんじゅうはちさんですね!」とインタビューされる程度にしか世間では認識されておらず、彼女達は当時の『秋葉原ブーム』の象徴としてリア・ディゾンや中川翔子と紅白の“アキバ枠”として出演し、持ち時間も1分35秒という超短時間だったのである。
それでも紅白出演は全国レベルで存在感をアピールできる。徐々に知名度を上げるAKB48の人気を飛躍的に高めたのが2009年に行われた第1回選抜総選挙だ。実は、秋元康はこれまでAKB劇場を訪れるファンの声を直接聞いてデビュー曲を決めるなどしてきた。篠田麻里子が1.5期生としてAKBに入ったのも、劇場のカフェで働く彼女をファンが推薦したことによるものだ。そして「秋元康は何も分かってない! なぜ○○がシングル曲で歌わないのか!?」そんなファンの声から実現したのが『AKB選抜総選挙』なのだ。
この年、2009年には秋元康がAKBメンバーを励ますかのような内容を書いた楽曲「RIVER」で初のオリコン1位を獲得、その曲を引っさげて2度目の紅白出場を果たす。この時には前回の“アキバ枠”の頃と世間の反応も全く違い「アキバよんじゅうはち」と呼ぶ者はもういなかった。
翌年、2010年には「ポニーテールとシュシュ」が50万枚を超える大ヒットとなる。さらに第2回選抜総選挙で大島優子が1位となりセンターを務めた「ヘビーローテーション」もそれを超える盛り上がりを見せる。9月には1回目の“シングル選抜じゃんけん大会”が行われ、現在のAKBの人気を支える基本的なイベントがこの頃に出来上がったと言える。
この年10月にリリースした18枚目シングル「Beginner」はついにミリオンとなりシングル年間1位となった。2010年のレコード大賞の最有力候補とみられたが、大賞はEXILEが受賞した。「女性グループはレコ大は取れない」というジンクスや「AKBには権威あるレコ大は取れない」などと世間でも囁かれたのである。
この時の心境を大島優子は「AKBに入って一番悔しかった」と語る。高橋みなみは「ただ純粋にそれ(レコ大)が欲しかった。悔しくてEXILEさんが歌うのを見れなかった」と言うほど、彼女達にとってレコード大賞は大きな目標だったのだ。
一方で以降のAKB48の快進撃は誰もが知るところだろう。2011年のレコード大賞では「フライングゲット」でついに大賞を受賞して涙のステージを務めたのである。念願のレコ大受賞に関して番組からのインタビューに前田敦子は「緊張して、本当に怖かった。とりあえず今日は自分達を誉めてもいいのかな」と涙した。高橋みなみは「これまで応援してくれた方々に“やっとここまで来ました”と胸を張れる」と語る。板野友美が「去年楽屋でみんなで泣いたのを思うと、今年は嬉し泣きができた」と微笑みながら涙を流した気持ちは全メンバーも同じだろう。
2011年レコード大賞のテレビ放送は、秋元康の受賞コメントも曲で遮られるほど時間が押してしまいAKBメンバーの声もあまり聞かれなかったが、放送終了後に司会の堺正章が彼女達に心境を尋ねていたのだ。高橋みなみはそこで「私達の力はまだまだだが、自分達にできることは精一杯やって、みなさんを少しでも笑顔に、元気にすること」とメンバーを代表してコメントしている。
同じく放送終了後の舞台裏で秋元康がインタビューに「何も見えない時代が長かった。それでも前に光があるんだと信じて歩き続けたメンバーは凄い。“夢は叶うんだ”ということが伝わったのではないかと思う」と語り、「この力をこれからの日本にもっと出して欲しいなと思う」と結んだ。実は、その後のインタビューで高橋みなみも「“夢は本当に叶うんだ”まだまだ私達は走って行きたい」と話しており、秋元康の思いがしっかりとメンバーに伝わっていることを感じた。
『AKBの人気も長くはない』と言う声も聞かれる中で、メンバー自身もその不安を口にすることがある。しかし彼女達の頑張る姿に救われた人々はそのCD売上枚数を上回るだろう。彼女達が『みなさんを少しでも笑顔に、元気にする』ことを目標とする限りAKB人気は続くのではないだろうか。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)