ケープタウンの中心地にあるテーブルベイというエリアで、クジラが水面に飛び出したときに誤って船に乗り上げるという事故があった。乗船していた3名は無事だったが、クジラが負傷したようだ。
巨大なクジラが着地したのは船の屋根の部分。鋼鉄のマストを押し倒し、船内の一部を破壊して海へ消えていった。クジラは最初船から100メートルほど遠くにいたが、次に姿を現したときは船から10メートルという近距離だった。乗船していた3名は「クジラが停まっている船の下を潜って、横から姿をみせると思っていた」そうだ。これに対し、ケープタウン哺乳類研究所は「クジラはあまり視力がよくなく、水中の音で方向がわかる生き物なので、エンジンを止めていたら船がそこにあったこともわからなかったでしょう。」と、クジラの視力の悪さによるアクシデントであることを示唆した。
不運なことに船はエンジンを止めていたため、回避する時間もなかったが、幸運なことにこの船はずっしり重い鉄製だったので、クジラの力で沈没するほど破壊するまでには至らなかった。しかし、クジラの方は船で暴れたときに怪我をしたようで、船にクジラの脂肪と皮がこびりついていた。こびりついたクジラの残滓を見たところそれほどひどい傷ではないとのこと。
この船の横に、もう一艘ツーリストの乗った小さい船があった。この船はクジラから300メートルほど離れてクジラの写真を撮っていたが、クジラが船に乗り上げる瞬間もきちんと捉えていた。ちなみにこの船には危害はなかった。
その後、クジラに襲われた船は救助の手を借りることなく港へ帰還した。
この鯨は『ミナミセミクジラ』という種類で、全長およそ15メートル、重さ60トンあり、動作が遅い。ケープ近郊にはこの時期出産のためによく現れるそうだ。南アフリカにいるミナミセミクジラの生息数が年7.5%の割合で増殖しているそうで、研究所では今後このような事故は頻繁に起こるだろうと考えられている。
逃げ場がない船で、いきなり60トンの巨体が目の前に現れる恐怖は推し量れない。
(TechinsightJapan編集部 近藤仁美)