無駄吠えして噛みつく犬。飼い主は「しつけが出来ていない」と非難され、近隣住民にとっても攻撃的な犬ほど厄介で怖いものはない。犬は人気の動物でありながら“ダメ犬”と化した場合はかなり頭の痛い問題となる。ではどうしたらイイコに育てることが出来るのか。このほど応用動物行動学に関する専門誌『Applied Animal Behaviour Science』に、子犬のしつけに関する素晴らしい研究調査結果が紹介された。これから犬を飼おうと考えている方、子犬を販売しているペットショップやブリーダーの皆さんには是非とも知っておいて頂きたい内容といえそうだ。
「一生懸命に世話していても犬のしつけはなかなか難しいもの。9割ほどの飼い主が悩みを抱えているのが実情です」と話すのは、年間約1,300匹の犬を対象にしつけや訓練を行ってきた英・補助犬協会の『Guide Dogs』。犬をイイコにするには生後6週間までの関わり方が重要で、発達段階に応じた世話やしつけがあったか否かでその後の性格形成に大きな違いが生じてくる、ということをこのほど突き止めたそうだ。
犬を飼ったら必ず覚えておくべきことは、できるだけ早いうちから多くの人、モノとの触れ合い、光、匂いや音というものを経験させておく必要があるということ。これを怠ると社会性に欠けた犬となり、散歩時に見知らぬ人、未知のものと遭遇するたびに驚き、恐怖、興奮、不安にかられ、それが吠えたり噛んだりという狂暴な行動につながってしまう。「新しい環境に移ったばかり、生まれたばかりでまだか弱い。静かに見守りガラス細工のごとく…」などと過保護なことを言っていてはならないそうだ。
『Guide Dogs』が、英ウォリックシャー州に持っているナショナル・ブリーディング・センター(National Breeding Centre)で行ったこのたびの研究調査。6匹の母犬が出産した複数の犬をそれぞれ2つのグループに分け、第1グループには従来のやり方によるしつけを、第2グループには以下の方法でしつけを行いながら観察が続けられ、生後6週および生後8か月の段階で各個体の興奮性、分離不安、落ち着きの欠如などについて比較と評価がなされた。
生まれて間もない子犬は目と耳があまり機能していない。そこで大切になるのが“接触”だという。『Guide Dogs』では第2グループの子犬を包むにあたり、ウール、フリース、ナイロンといった異なる素材のブランケットを用意してたびたび交換。様々な触り心地に慣れさせていった。生後2週までに訓練士はとにかく触れ、撫で、抱くといったことを繰り返し、柔らかめの歯ブラシで体をポンポンと叩いたり、優しく毛を撫でてあげたりした。論文では「そうした触れ合いにより人間との間に強い結束、絆が生まれたようだ」と述べられている。
その時期が過ぎ、身体のサイズがぐんぐんと成長する生後2~4週の間に行われたのは、やはり“接触”をテーマにしたしつけ。触り心地の経験と記憶を増やすことを目的に、コンクリート、ゴムほか異なる材質の床を歩く練習が始まった。また聴覚が発達してくる頃だけに、携帯電話の呼び出し音、テレビの音、洗濯機、食器洗浄機など生活の中の音をあれこれと聴かせ、慣れさせていったという。