医学の進歩や快挙の話題は本当に嬉しいものである。米フィラデルフィアで1年半前に両手の移植手術を受け、懸命なリハビリを続けていた1人の少年。彼は今ではボールを投げたり文字を書いたりすることができるようになった。海を越えた英メディア『metro.co.uk』もこの快挙を大きく伝えている。
少年はザイオン・ハーヴェイ君(現在10歳)。彼が四肢を失ったのは2歳の時であった。感染症に端を発した全身性の敗血症で生命の危機に陥り、組織が壊死した両手と両足の切断を余儀なくされたという。その後は両手に変わる特殊な器具を使用しながら洗面、着替えから食事、排せつ、入浴、就寝の準備までをおこなっていたが幼いだけにうまく行かないことの連続で、息子が自力で衣服を整え、食事を摂り、歯を磨けるようになることは母親の悲願でもあったという。
そしてザイオン君にふさわしい上肢を提供できるドナーが現れたとの情報を得た2015年7月、ペンシルバニア大学医学部と提携している「Children’s Hospital of Philadelphia」では10時間40分もの時間をかけた移植手術が行われた。ドナーとレシピエント、それぞれの左右の手に対応する4つの医療チームが組まれ、手術は大成功。脳と手の筋肉を接続するため脳には電極が埋め込まれ、あとはリハビリテーション(作業療法)を通じてコンピュータがどれだけの信号を受け取り、また指先に向かって送れるかに委ねられた。
移植から6日後にはリハビリがスタートし、筆記用具、ナイフ、フォークを使う訓練が始まったほか、ビデオゲーム、フィンガーライト、指人形といった楽しめるものも積極的に取り入れられた。徐々に手に筋肉がついてきたザイオン君は半年もすると電極からの命令を受けて指を動かす、触れるという感覚を得るようになり、ペンを握って書く楽しみを実感。その2か月後にはハサミを握れるようになった。拒絶反応と多くの挫折を乗り越え、苦しいリハビリを続けてきた少年。この通りボール遊びを楽しめるまでになったが、最大の目標は「雲梯(うんてい)に挑戦する。野球のバットを握り、振る」であるという。