英ウェールズのスウォンジーに住むリンゼイ・スミスさん(34)は、この18年間眠ることができないでいる。「発作が起これば命の危険に繋がります」そう医師に宣告された娘を持つリンゼイさんは、一瞬でも娘から目を離すことができない。取り返しのつかないことにならぬよう、普段の生活で全く気を抜くことができないのだ。
リンゼイさんは16歳の時に出産。現在18歳になる娘ジェイデンさんは、重度のてんかんを患っている。この18年間、発作が起これば命の危機に晒される娘の世話を24時間つきっきりで行ってきた。居眠りをしてしまわないようにと夜も1時間おきにアラームをセットする。毎日1時間あるかないかの睡眠で過ごしているというリンゼイさんの体力はもう限界に近付いていた。
「娘のことは、何よりも大切です。その気持ちに変わりはありません。娘を産んだことも後悔はしていません。でも、シングルマザーとしてひとりで病気の娘を支えていくことはやっぱり辛い」と、リンゼイさんは本音を英紙『Mirror』に語った。
自分が寝ている間に、娘が発作を起こしてしまえば命取りになる可能性がある…。そんなプレッシャーはこの18年間、リンゼイさんに一時たりとも休息を与えなかった。こうしたてんかん発作を事前に察知し、アラームで知らせるという特別な警報器があるのだが、リンゼイさんが国営保健サービス(NHS)にその適用を申請したところ却下されてしまった。
この国営保健サービスでは、一般の診療費や治療費、手術代、出産費用などが無料になる。しかし病院側が赤字になることも多く、本当に対応が必要な重篤な患者まで手が回らないというケースもしばしば起こっているという。今回リンゼイさんが拒否されてしまったのも、恐らく予算の都合と現在の患者数が関係しているとみられる。
さらには最近のBrexit(EU離脱)の煽りを受けて、ひとり親世帯や障がいを抱える人たちなどは国からの支援が大幅にカットされるという話もある。EU離脱は数年後になるとはいえ、現在も既にその影響を受けている市民は少なくない。
シングルマザーとして重度な疾患を抱える子供と毎日ギリギリの生活をしているリンゼイさんには、娘のための特別な警報器を実費で購入することは不可能であった。そこで『The Sunday People』紙がこの一件を報じると、読者からの寄付金が寄せられた。特別な警報器は値段がおよそ900ポンド(約11万6000円)。ひとりではとても出せなかった金額が、優しい支援者のおかげで集まり、リンゼイさんはジェイデンさんのためにようやく特別の警報器を手に入れることができた。
「この18年間、私はゾンビのようでした。昼間に、夜ゆっくり休んでいる自分を想像してしまうほど夜の休息を望んでいました。夜ぐっすり眠れるということは、今の私にとって最高の休日を与えられるのと同じことなのです。」
そのように話すリンゼイさんにとって、この18年間はまさに苦悩の連続だったことだろう。「ほんの少しでもいいから横になりたい」というささやかな願いをついに叶えることができると、リンゼイさんは、支援者全員に感謝の気持ちを述べた。
ジェイデンさんは医師から「30歳までは生きられない」と宣告を受けている。「娘に残された時間は限られています。でも(今後は)少しリラックスしながら娘の世話ができそうです」と語るリンゼイさんだが、医師の余命宣告を超えて、愛する娘に奇跡が起こることを祈っているに違いない。
出典:http://www.mirror.co.uk
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)