台湾の映画史上最高となる7億台湾ドルの制作費用が費やされた大作『賽徳克巴莱』(セデック・バレ)が、ベネチア国際映画祭で世界初公開された。上演が終わると、会場を埋め尽くしていた約800人の観衆から大きな拍手が送られ、それはエンドロールが終わるまで、およそ10分も続いた。
魏徳聖(サミュエル・ウェイ)監督による作品『賽徳克巴莱』は、日本統治時代の1930年に起きた「霧社事件」を描いたもので、セデック族が日本軍の虐待に抵抗した壮絶な戦いと、自分たちの場所とプライドを守るため、最後は自ら命を絶った悲しい結末が描かれている。
劇中で注目すべきは、セデック族の英雄を演じる林慶台(51)だ。タイヤル族の彼は、撮影前までは経歴20年の牧師だった。映画の出演が決定した際には、緊張のあまり腰が抜けたというが、劇中に見せる、冷静で殺気に満ちた目からは、そんな様子は微塵も感じられない。また、青年モナを演じた大慶(30)は、トラックの運転手だった。監督から映画出演の話を聞いた時には「詐欺グループだと思った」という。
しかし、そんな原住民俳優たちが好評を受け、エンターテイメント業界紙『ハリウッド・リポーター』でも、彼らの感情表現や、裸足で森を駆け回る体の表現力が高く評価されている。素人俳優を起用したサミュエル監督の「自分のやり方で語るストーリー」が世界に認められたといえよう。
完全版の作品は4時間半に及び、一般公開では上・下の2部作となる長編のため、ベネチア国際映画祭では2時間半の国際版が上演された。通常、上映後の拍手は3~5分。5分続けば作品が好評だといえる。そんな中で10分もの拍手を受けた作品。受賞への期待が高まる。
(TechinsightJapan編集部 片倉愛)