エンタがビタミン

writer : techinsight

【エンタがビタミン♪】一触即発だった。中村勘三郎と野田秀樹、道玄坂での運命の出会い。

歌舞伎と現代劇とを柔軟に演じ、また平成中村座として海外公演にも挑むなど常にチャレンジ精神を失わない歌舞伎俳優・中村勘三郎。そして、かつては小劇団ブームの先駆けであり、新しい芝居に歌舞伎の題材なども取り入れている演劇人・野田秀樹。組んで芝居をするようになって久しい彼らには、運命的ともいえる出会いがあった。

9月12日放送の「ウチくる!?」。ゲストの中村勘三郎おすすめのすっぽん料理店にてシークレットで登場したのは、公私ともに親しい野田秀樹だった。同い年でもあり、気の置けない友人同士である二人の出会いは、偶然だったという。

それは25年前の、渋谷の道玄坂での出来事だった。坂の上から下って来たのは当時劇団・夢の遊眠社を率いていた野田秀樹と俳優たち、そして坂の下から上ってくるのは中村勘三郎と歌舞伎俳優たちだった。当然、互いのことは知っていたものの、ジャンルの違う二人である。一瞬、小劇団軍団VS歌舞伎軍団というような、一触即発の空気が流れた。だが、あわや…というところで勘三郎がフレンドリーに「同級生なんだよね」と声をかけて、緊迫した空気は消えた。
その夜、二人はさっそく飲みに行ったという。初対面なのにぐでんぐでんに酔っぱらって月を見て泣いていた勘三郎を見て、野田は「ただの酔っ払いだな」とあきれたそうだが、その屈託のなさに惹かれたのだろうか、それから二人の交流は始まった。

その後、勘三郎が野田に歌舞伎の脚本を書いてほしいと頼み、二人で夜中の歌舞伎座に行って誰もいない舞台に立って花道を歩いた時、野田が「ここで演ってみたい」と言った。それを聞き逃さなかった勘三郎はさっそく次の日に野田の事務所や松竹などに電話をして、スケジュールの調整に入った。勘三郎はそんな自分を「せっかちだから」と言うが、そのフットワークの軽さがあったからこそ、今の彼らがあるのである。こうして野田版・歌舞伎シリーズが生まれたのだ。
それからも二人は何度も組んで仕事をして、現在公演中の舞台「表に出ろいっ!」では夫婦役で共演している。

「『歌舞伎』を見に行く、と言われるのが悔しい」と言う勘三郎。現代の演劇なら劇団名や芝居のタイトル、あるいは俳優の名前で「○○を見に行く」と言うだろう。そんなふうに「『中村勘三郎を見に行く』と言ってほしい」と勘三郎は言う。元は大衆演劇であったのに、いつしか歌舞伎が特別なもの、格調高いものとしてとらえられるようになったことも不満なのだろうか。
歌舞伎は特別なものではないという勘三郎の思いと、新しい演劇スタイルをとりながらも、面白いものは古典でもなんでも取り入れるという野田の柔軟さが結びつくのは、自然の理といっても過言ではない。まさに道玄坂の出会いは運命であったのだ。
(TechinsightJapan編集部 大藪春美)