writer : techinsight

【ドラマの女王】視聴者の差別化?「上流」しか描かれない。山崎作品の異端児。『不毛地帯』

今回の【ドラマの女王】は、唐沢寿明主演『不毛地帯』。原作は「華麗なる一族」「白い巨塔」「大地の子」「沈まぬ太陽」ととにかくドラマ・映画化されている山崎豊子の小説。例によって、戦争だとか政治だとか権力抗争だとか相変わらず女性らしくないノンフィクション系フィクション。しかもこのドラマはいつもの山崎センセイ作品のように誰にでもわかりやすく“作ってない”あたりが大失敗の予感。それでも「フジテレビ開局50周年記念ドラマ」として2クールやるそうな。

御年85歳の山崎豊子センセイは、大阪生まれ堺市に在住で、まだまだ現役。その作風は、戦争や政治に絡んだ事件などを実在した人物名を少し変えて脚色、名も無い庶民にもスポットをあててスケールのでっかいストーリーを描く。現在公開中の『沈まぬ太陽』(渡辺謙主演)の原作もその一つ。かつて山崎氏が『徹子の部屋』に出た時、「白い巨塔」(フジテレビ版)で唐沢寿明に「アンタいい度胸してるね」と恫喝したと言っていた。ざっくり言うと関西の怖いオバハンである。

その山崎氏が渾身を込めて書いた『不毛地帯』。第四話はこんな感じ。
シベリアに抑留されて大変な思いをして帰ってきた主人公の壱岐正(唐沢寿明)は商事会社に入社し、どうやら自衛隊に戦闘機を売っているらしい。防衛庁に反発した川又伊佐雄(柳葉敏郎)は、何か罪を着せられてしまい鉄道自殺。段田安則が悪い役人で・・・・。

むずかしい題材でも、ドラマティックで分かりやすいところが最大の特徴である山崎作品。どんな能天気な女子高生でも『大地の子』を見れば涙するだろうし、渋谷のチャラ男でも『白い巨塔』を見れば病院内部の腐敗が分かる。それが山崎作品なのだ。だのに『不毛地帯』は登場人物の視点が政治家や商事会社の上層部やその家族という「上流」からのみ。そのため庶民性に欠け、リアルタイムにその時代を生きた人以外は理解しにくい。あえて工場長などを出したTBS系のお役所ドラマ『官僚たちの夏』よりも歩み寄りが足りない気がする。

今クールフジテレビ系は、『東京DOGS』と『オトメン・秋』と、『リアル・クローズ』、『ライアー・ゲーム』。『不毛地帯』以外は若者向けの軽いものばかりだ。完全に視聴者を差別化している。『不毛地帯』のターゲットは高度成長期、バブル、と日本が上がっていくサマを見てきた高年層。それ以外は、後先なんにも考えない若者向けドラマを量産するフジテレビ。このやり方に格差社会の不安を感じるのは記者だけだろうか。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)