赤ちゃんのある日突然の初語、歩行開始に、ヒトの脳が常に刺激を待ち続け、何らかのスイッチが入ると突然のように機能しはじめることを強く感じるという人は多い。そして世の中には、頭や脳に強いダメージを受けた後になぜか突然IQが高くなった人々の話も。脳の謎は深まるばかりだ。
交通事故などで頭を強打し、脳しんとうや脳出血に見舞われた人が、その後になぜか「天才」と呼ばれるようになる。こんな珍現象が世の中には稀に起きているのだ。このほど英紙『デイリー・ミラー』電子版がそんな数人の例を紹介し、話題を呼んでいる。抜粋してお伝えしてみたい。
■ジェイソン・パジェットさん(米ワシントン州=43)
学業はドロップアウトし、父親の経営する家具店で働いていた31歳の時、夜道で強盗に襲われ頭を激しく殴られた。その後の彼は数学と物理学の分野で天才ぶりを発揮し、幾何学の概念「フラクタル」をどんな困難なものでも数週間で手書きで完成させてしまう、世界でも数少ない天才として今に至っている(写真はabcnews.go.comのスクリーンショット)。発達障がいが認められる者の中で並はずれた記憶力を示す、芸術の分野などで優れた才能を発揮する者を「サヴァン症候群」と呼ぶが、ジェイソンさんもそんなひとりである。
■オーランド・サーレルさん(米バージニア州=44)
10歳の時、野球の試合でボールを側頭部に受け失神。ただし両親にそのことを言わず、病院での検査は受けていない。1年にわたる頭痛を経て、気が付いたらあらゆる日付と曜日を瞬時に言い当てることが出来るようになり、「天体暦算の天才」と呼ばれるようになった。「4月22日の17週後の金曜日は何月何日?」といった質問は、オーランドさんにとっては超カンタンなレベル。たとえば「1983年2月11日はどんな日だった?」と尋ねると、「金曜日で天気は雨だった」とまで答えてくれるという。
■トニー・チッコリアさん(米ニューヨーク州=62)
1994年、整形外科医として働いていた42歳の時、公園を散歩していて落雷に見舞われ、稲妻は彼の顔面から左足を走りぬけた。集中治療室での治療を経てトニーさんはなぜか無性にピアノを弾きたくなり、楽譜を買いあさり独学でクラシックピアノをマスター。雷が生んだ奇跡の天才ピアニストとして人気を博し、現在も自由時間のすべてをピアノと作曲に捧げているという。
■ベン・マクマホンさん(オーストラリア=22)
交通事故により脳にダメージを受け、昏睡状態は1週間。彼の覚醒は心配しながら見守っていた両親を感動させるとともに驚かせた。なんと北京語をペラペラと話し始めたというのだ。「目の前に中国人の看護師さんがいて、北京語を話せる自分自身に夢を見ている気分でした。学校でちょっとそれを勉強しましたが、落第点でしたから」と話している。脳の“引き出し”に眠っていた中国語学習の記憶がすべてよみがえったほか、みるみるスキルアップしていったベンさんは現在オーストラリアで中国人旅行客のツアーガイドを務め、中国語のテレビ番組にも出演している。
■ダニエル・タメットさん(英ロンドン=35)
3歳の時にてんかん発作を起こすようになったダニエルさん。25歳の時に高機能自閉症(自閉症ではあるが知能は高い)と診断され、奇跡の暗算能力により数学者の道を歩むことになる。常に「数」に強い関心を示してきたダニエルさんは、数字や番号を色、形、図面のイメージとしてビジュアル的に捉え、そこに自分の感情を重ね合わせて理解しているそうだ。また、外国語の学習においても類まれな才能を発揮し、あるテレビ番組の「1週間で10か国語を話せるようになるか」という企画にチャレンジし、見事成功させて話題をさらった。世界数十か国で放送され、「サヴァン症候群」の認知度をいっきに高めたドキュメンタリー番組『ブレインマン』の主人公である。
以上、『デイリー・メール』紙の特集でこのほど紹介された“天才”たちである。現代サイエンスにおいて、いまだに未知のことだらけ、謎が多いと言われる脳。ここで挙げられた人々は、脳内で突然何らかのスイッチが入ったに違いない。だが彼らはあくまでも奇跡的な例であり、脳への激しいダメージは何としても避けるべきものであることに変わりはない。
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)