writer : sekihara

【ファッションを味方につける】ジョルジオ・アルマーニ氏から学んだこと パーソナルスタイリスト・樋口玲子さん

ファストファッションからハイブランドまでさまざまな服を選択できる現代、あなたは自分のファッションスタイルに迷うことはないだろうか。そんな悩める女性に日々アドバイスを送っているのが、パーソナルスタイリスト・樋口玲子さんだ。樋口さんは「アルマーニ」のバイヤーとして業界の第一線で活躍し、多くの著名人をスタイリングしてきたファッションのスペシャリストだ。このような経歴を聞くと樋口さんは完全にハイブランド志向なのでは? と想像しがちだが、実はプチプラのアイテムもうまくファッションに取り入れているという。ファッションの話になるとパッと目を輝かせ生き生きと語る樋口さんを取材、併せてプチプラの「白シャツ」をテーマにしたコーディネート術も披露してもらった。

樋口玲子さんは短大卒業後、「小さな頃から好きだったファッションを仕事にしよう」と婦人服メーカーに入社、百貨店での販売でファッション業界の第一歩を踏み出す。その後、インポートブランドの販売・営業を経て、1999年に「ジョルジオアルマーニジャパン株式会社」に入社。フラッグシップ店で販売・PRなどに従事し、2005年からは本場ミラノコレクションに出向き、日本で販売する商品の買い付けに参加するなど第一線で活躍した。そして六本木ヒルズ店のマネージャーでもあった2011年に出産を控えて退社。その後はパーソナルスタイリストとして活動している。そんな樋口さんに話を伺った。

ファッションについて生き生きと語る樋口玲子さん

■アルマーニは「シンプルで美しい」ものを追求
―内側を知る樋口さんから見た「アルマーニ」というブランドについて教えてください。
樋口さん:アルマーニは、余計なものをとことんそぎ落として「シンプルで美しい」を追求しています。きらびやかとは対極にあり、色を使わないことで(単色なものほど)その人自身の個性や生き様や心意気で着こなします。ですのでジョルジオ・アルマーニは若い人にとっては着こなしが難しいブランドかもしれません。

■ジョルジオ・アルマーニ氏の超一流の仕事を目の当たりに。
―なるほど。ミラノではどのような経験をされましたか?
樋口さん:ミラノでアルマーニの本社に行って、ジョルジオ・アルマーニ氏の意識の高さを目の当たりにして「一流の仕事ぶりとは、これか!」と強烈な感銘を受けました。また間近でコレクションを観たときは鳥肌が立つほど感動して、その美しさに魅了されました。アルマーニに限らず、長い間支持されるものは、人を惹きつけるということを実感しましたね。「バイヤー」というとキラキラしたイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のミラノでの買付業務はあらゆる意味で非常にハードでした。ですが、「この素晴らしさを伝えたい」とその一心で、頑張ることが出来たのだと思います。

■机の塵一つも許さない。
―「アルマーニ氏の一流の仕事ぶり」気になりますね。具体的なエピソードがあれば教えてください。
樋口さん:私がイタリアで買い付けをしていたとき、買い付け会場が突然緊迫したことがあります。スタッフが雑多なデスクやサンプルのディスプレイなどを慌てて整えだしたのです。「これからアルマーニ氏が来る! 会場内がほんの少しでも乱れていると激怒する!」と皆焦っていたのです。一瞬ざわっとしたのち、取り巻きの男性スタッフとともにアルマーニ氏が登場しました。気難しい表情とピンと張り詰めた空気を覚えています。とにかく今まで感じたことのない緊張感でした。アルマーニ氏はモデルがランウェイに出る直前まで手直しをするというのは有名な話ですが、職場のデスクの塵一つも許さない。自分に関わる全てにおいて美学を貫いているのだなと感じました。

―アルマーニ氏はご自分の美学に妥協を許さない方ということですね。
樋口さん:はい。アルマーニ氏はミラノにある店舗に毎週足を運んで、スタッフに「仕事はどう?」と声をかけながら店内の様子を見に来ます。ここで店内のディスプレイが少しでも乱れていないか事細かに確認します。当時のアルマーニ氏は70歳を過ぎていましたが、全てのことにおいて、けして人任せにはしません。もちろん経営もです。アルマーニは大きな企業からの合併や買収の話に対してもずっと断り続けてきました。その理由は、マーケットの為の物づくりではなく、アルマーニの世界観の追求を最も尊重しているからです。

―「アルマーニ=高価」というイメージがありますが、実際に樋口さんが扱ったなかで最も記憶に残っている商品はありますか?
樋口さん:紳士で1000万円を超えるオーダーメイドのスーツがありました。ビキューナという素材で、こちらは広大な土地でエリートのビキューナ(ラクダ科の小さな動物)を飼うことから始まります。

■自分の強みのファッションを活かして
―そのようなハイブランドから一転、なぜパーソナルスタイリストになられたのですか?
樋口さん:アルマーニでの仕事もやりがいがあったのですが、もうやり遂げたという感じもありました。退職後に何をしようかと考えたときに、やはり自分の強みはファッションなので、これまでに培った経験を活かして、さらにアルマーニで学んだことは決して遠くの世界の出来事ではなく、私たちの普段の生活にも取り入れることができる―それを皆さんにお伝えしたいと思ったのがきっかけです。たとえば家事や育児、仕事に忙しく「おしゃれなんてしている暇はないわ」というお母さんにとってもファッションは「味方」になります。私にも現在5歳になる息子がいるのですが、子育てと仕事を両立する上で、これまでの経験に助けられることが多々あります。

―同じ接客でもずいぶん層が変わったのではないですか?
樋口さん:アルマーニでは、芸能人など著名人や「先生」と呼ばれるような職業の方、外国の富裕層の方などがいらっしゃいました。現在私がスタイリングのお手伝いをさせていただくのは、主婦の方やOLの方はもちろん、これから仕事復帰する育休中のキャリアママなど全ての女性です。皆さんに共通されるのは「ファッションが持つ力」に改めて気づいて、それによってご自分のブランディングをしたいという点だと思います。

個々の魅力を引き出すスタイリングを提案する樋口玲子さん

■新しい着こなしで日常をひとつ突き破ってほしい。
―今のお仕事、パーソナルスタイリングでのやりがいは何でしょうか?
樋口さん:お店に同行してスタイリングするのを「ファッションクルーズ」と呼んでいるのですが、たくさん試着をしていただくんですね。フィッティングルームから出てきた瞬間の表情でお客様が「喜んでいる」って分かるんです。「やっぱり似合う!」とハマったときは快感ですし、喜んでいただくのがやりがいですね。他にはその方に洋服の選び方をアドバイスしたり、その方にあった着こなしのポイントをお伝えるようにしていますが、それも喜ばれると嬉しいですね。(新しい着こなしで)新しい自分と出会い、変わりない日常をひとつ突き破って生き生きしていただけたらなと思います。

■ひとつをいい加減に選ぶとそのまま“いい加減な自分”になってしまう。
―アルマーニで培ったもので、今も活かされているものはありますか?
樋口さん:うわべだけではないその人の本質の美しさや、物をひとつ選ぶにしてもその過程や背景にあるものは何なのか、それこそが大切ということを経験から学びました。と言うのも、イタリアを普通に歩いているマダムやシニアの方ってとてもかっこいい。最初は顔の彫りの深さや人種の違いかと思ったのですが、あるときイタリア在住の日本人に会ったらやはりかっこよかったんです。そこで、これは見た目の作りの問題ではないなと。生き様とか心意気の違いだと気づいたのです。「うわべだけではない美しさ」とは何だろうと考えますね。特に20代、30代は若さでいけますし、服の着こなしも試行錯誤で流行に乗っていろいろなものを着ますが、私も40歳を過ぎて子どもが出来て、大人の立場になるともう上っ面の軽いものでは立ち行かないなと。物を見る目というのはとても大切なもので、ひとつをいい加減に選んでしまったら、それはそのままいい加減な自分に繋がってしまうと思っています。

―なるほど。「選ぶ」という行為に妥協したくないということですね。では樋口さんご自身は、どのように洋服を選んでいるのですか?
樋口さん:これを着ていたら絶対に素敵と思われる服、自分を一番良く見せてくれる服で「軸になるコーディネート」を作ります。軸になるものですから、そこはいい素材やいい形のものを選びます。だからと言ってけっして高い物ばかりではないです。最近はセレクトショップが好きですね。価格も5000円から10万円ぐらいまで幅広く、30代~50代の人が着られる服がありますので。それとそのシーズンのトレンドはファストファッションのお店で買います。いずれもサイズや自分に合うか確認するために必ず試着しますね。

■ファッションに惜しみなくお金をかける時代は過ぎた。
―ハイファッション業界のど真ん中にいた樋口さんがファストファッションを利用するとは意外ですね。
樋口さん:2000年頃でしょうか、海外セレブがハイブランドとファストファッションを組み合わせたスタイルをして話題になりました。そこから流れが変わってきたのかなと思います。その後、安くても品質の良いものが出まわり、プチプラでも十分おしゃれができるようになりました。特にその年だけの流行アイテムを購入する場合、来年はもう旬を過ぎてしまって1シーズンしか着る機会がないかもしれない。そこに高いお金を支払って…というのは慎重になります。そんなとき強い味方になるのがプチプラのファストファッションですね。もちろん経済的に余裕のある方は高価なものでも躊躇されないかもしれませんが。ファッションに惜しみなくお金をかける時代はピークを過ぎたのかなとも感じています。

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