エンタがビタミン

writer : ume

【エンタがビタミン♪】<インタビュー>「奥さ~ん」が耳から離れない。ネットで話題『振り向けば、アンチ特売』歌うのは昭和の超ヒット歌手だった。

動画サイトYouTubeで西友の「EDLP(Every Day Low Price)」テーマソング『振り向けば、アンチ特売』が密かなブームを呼んでいる。「奥さ~ん」と語りかける声がどこかいやらしく、スーパーなのに“アンチ特売?”、一度聞いたら忘れられない歌詞にメロディー。一体この歌を歌っているのはどんな人物なのか? テックインサイト編集部が歌っている本人を直撃した。

取材当日、我々の目の前に現れたのは温和で品のよさげな男性。「奥さ~ん」と呼びかけるあの声の持ち主とは到底思えないが、この男性こそ『振り向けば、アンチ特売』の歌い手、佳山明生である。この名前にピンと来たあなたは昭和をリアルに生きた人かも。彼は知る人ぞ知る昭和の大ヒット曲『氷雨』を世に送り出した演歌界の大物だ。そんな人物がなぜ『振り向けば、アンチ特売』を歌うことになったのか?

生演奏、生歌を披露 佳山明生

■何だこれは!? 若い子の発想はすごい。
──『振り向けば、アンチ特売』は佳山さんのこれまでの曲とは一風変わっていますが、歌った感想はいかがですか?
佳山:最初は「何だこれは!?」って思いましたよ。若い子の発想はすごいね(笑)。歌詞も曲も。音の取り方がすごい。これを作った人を褒め称えたいね。

「奥さ~ん、特売のこと好きでしょ?」佳山明生

■40年の意地、どんな背広も着こなす自信がある。
実はこの『振り向けば、アンチ特売』、本当に歌いこなせるのか最初にテストがあったという。急きょ白羽の矢が立った佳山は寝ずに練習。一発OKとなる。
──限られた時間のなかで、演歌ではなくセリフもある曲を覚えて歌うというのは大変だったのではないですか?
佳山:すべてが未知でしたね。覚えた曲が、途中で半分変わったりもして大変だった。それでも40年歌ってきた意地があるから一生懸命覚えましたよ。歳をとって恥はかきたくない。他の歌い手にはできない、どんな背広も着こなしてやろうって。蓄積した実力を再発見できた良い機会になったと思います。

「いじりやすいから、いじって(笑)」佳山明生

■次々と他の歌手が代表作『氷雨』をカバー。当時は「とびに油揚げをさらわれたよう…」
──デビュー曲『氷雨』で一躍スターの座についた佳山さんですが、その後あまり間をおかずに、日野美歌さんや箱崎晋一郎さんが(『氷雨』を)カバーしました。最初にご自身が歌った曲を、他の誰かが次々に歌いヒットするというのはどういうお気持ちでしたか?
佳山:正直言うとね、最初は「何で?」って思いましたよ。“とびに油揚げをさらわれる”みたいですごく嫌だったね。ただね、『氷雨』っていうのはね、歌手になれなかった僕の友人が、働いていたお店にやってきた一人の女性が語った言葉をカウンターの下で書き留めて作った曲なんです。僕にとって『氷雨』は彼と一緒に産んだ子供のような存在。(他の歌手とは)歌に込めた魂の次元が違うから、他の人がコピーした背広を着ても全然動じない。一着の服を大事に大事に着る、佳山明生の魂で歌えばいい、そういう思いですね。

「佳山明生なりに曲を変換して出さないと心には響かない」佳山明生

■美輪明宏が名付け親
──佳山さんの芸名はシャンソン歌手・美輪明宏さんが名付け親とのことですが。
佳山:栃木の那須のホテルで専属歌手になりたかった時、美輪さんの駒沢の自宅を訪ね、一時間半くらい話したかな。その時「名前をつけてあげる」と言われ、佳(よ)い山で明るく生まれると書いて「佳山明生」という名前をつけてもらったんです。加山雄三のファンだったから同じ佳山(かやま)で「おおーいいね」って思いましたよ(笑)。

「好きな人、愛する人のために生きる、それが命だよ」佳山明生

■様々な出逢いの果てに結ばれた妻。彼女に「あんた素敵だな」って思ってもらえるように
──歌謡曲、演歌が大ヒットした昭和の時代と比べると昨今の音楽業界のあり方も変わってきていますが。
佳山:自分の魂を売って組織(芸能界)に入るのは好きではないです。納得したもの作り、いい歌を歌う。僕を支持してくれるのは大衆。その大衆を待ち続けているんです。自分のエンジン(体調)も整備していい状態を保っている。『氷雨』1曲ではなく、最大の出会いをしたこの人(妻)のために「あんた素敵だな」って思ってもらえるように頑張りたいですね。

佳山明生という人は愛と優しさに溢れ、ぶれることのない強い信念を持ち続けて生きてきた人だということがよく分かった。そんな佳山の発する「奥さ~ん」が平成の世の今、その人生に大きな波を起こしていることは間違いない。一度聞いたら頭から離れない、思わず口ずさんでしまう『振り向けば、アンチ特売』の虜がちまたに溢れる日もそう遠くなさそうだ。

(TechinsightJapan編集部 うめ智子)