神経細胞の数は千数百億ほどと言われているヒトの「脳」。その衰えにある種のウイルスが絡んでいるとの研究発表がなされ、米国人の半数近くの体内にそのウイルスが潜んでいるとみられることから注目を集めている。
日常生活において私たちのほぼすべてが、たびたびインフルエンザほか風邪症状をもたらす種類のウイルスと闘いながら生きている。だがヒトの喉に棲みつくのはそればかりではない。あるウイルスは、どうやらヒトの脳の働きを鈍化させる力を持っているというのだ。
医学機関誌『米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)』にそんな研究結果を発表したのは、医学系の名門「ジョンズ・ホプキンス大学」ウイルス学のロバート・ヨルケン博士が率いるチームと、ネブラスカ大学の合同研究チーム。今回問題となったウイルスは、水中に発生する“緑藻”と同じDNA構造を持つ微生物で、これまで誰も関心を示さない名もなき存在であったという。
研究に協力した成人90名のうち、喉をぬぐう検査によりそのウイルスを保有していることが分かったのは40人。陰性であった人々と比べ、彼らは視覚情報処理の速さや注意力を競うテストで劣っていることが判明したという。視覚に大きく作用しながら空間認識を構成するのは大脳皮質領域だが、それまで認知機能などが正常であった人も、そのウイルスに感染することで頭のキレが徐々に失われていくと考えられるとのこと。解明のための研究が今後も続くもようだ。
たとえば腸内だけでも善玉菌、悪玉菌、日和見菌と無数の細菌が存在し、神経の中で眠りながらストレスや体調不良の時に悪さをするヘルペスウイルスや帯状疱疹ウイルスなど実に多くの細菌とウイルスが棲みついている。だが今回の研究結果が示しているのは、これまでほとんど無害とされてきたものが実は徐々に体に悪影響をおよぼしていたということ。ヒトの体にダメージを与える「侵略者」は想像以上に多いと言わざるを得ないようだ。
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(TechinsightJapan編集部 Joy横手)