2012年2月と6月に日本テレビの情報番組『スッキリ!!』で放送した“詐欺被害の特集”で、偽の被害者を捏造していわゆるヤラセ番組を作った件が指摘されていた。2014年3月5日に放送倫理・番組向上機構(BPO)が審議した結果、「放送倫理違反とまでは言えない」と判断したことを発表している。
問題となったのは『スッキリ!!』で“悪質出会い系サイトの実態”や、芸能人になりすました“サクラサイト商法に注意”の特集で詐欺被害にあったという男女に取材を行ったが、第三者からヤラセを指摘されたものだ。その後、同番組にも出演する弁護士がその男女は自分の知人(事務所職員)であると認めた。
「放送事業の公共性と社会的影響の重大性を踏まえて、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的とした非営利・非政府の団体」を謳うBPO放送倫理検証委員会が、この事案に対して「放送倫理違反とまでは言えない」と判断を下した。
その主旨は次のようなものだ。
日本テレビが十分な裏付け取材を行わず「ニセ被害者」の証言を放送し視聴者の信頼を損なった。だが、弁護士がインターネット詐欺事件を扱う専門家ということもあり、2人を紹介された番組関係者が「被害者」だと信じる状況にあったと言える。
番組制作側は詐欺事件に関して弁護士を十分に信頼しており、その弁護士が紹介する「被害者」には裏付け証拠に等しい信頼性つまり“保証”があった。そうした状況で「ニセ被害者」を紹介した弁護士にこそ主たる責任がある。
日本テレビが結果的に事実と異なる放送をしたことについては、裏付け取材の不足は否めない。だが、以上の状況から「放送倫理違反とまでは言えない」と判断する。
また、BPO放送倫理検証委員会は日本テレビに限らず「すべての放送人に参考にして欲しい」と3つ問題提起をしている。
『顔なし映像のデメリットを考えてほしい』…匿名報道の常態化が、「ニセ被害者」や「虚偽の証言」を容易にする土壌になっていることは否めないように思われる。
『「専門家」に対する過度の依存を考え直してほしい』…「専門家」であれば、よもやウソを言うはずがないと安易に考えがちだ。「専門家」とはいえ、自身の利益のために打算的になる者もいないとは限らない。
『取材・制作現場が萎縮しないように留意してほしい』…日本テレビは今回の件を受けて取材ルールを厳しく改訂したが、現場をがんじがらめに縛ってしまう心配はないか。現場が萎縮して社会に生起する問題を視聴者に伝えて警鐘を鳴らすという放送本来の役割を損なわないよう留意が必要だ。
弁護士がヤラセを認めたことから、『スッキリ!!』では3分20秒にわたりお詫びを放送。十分に裏付けを取らなかったことなどすべてを明らかにして、率直かつ詳細に詫びた姿勢をBPOは評価している。
本件について「放送倫理違反とまでは言えない」としたことも、犯罪の抑止に貢献しようとする意欲が見られたことから、今後もそうした姿勢を萎縮させないために判断したものだという。
「萎縮することなく、生き生きとした創造的活動ができるような環境と文化を構築するよう、放送人の責務としてぜひ努力してほしい」とBPOは今後の番組作りに期待していた。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)