規則が大変厳しい航空業界において、大勢の人の命を預かるパイロットが酒臭い息で旅客機の操縦席に座るくらい恐ろしい話はない。さる9月に、飲酒状態でフライトに臨もうとしたパキスタン国際航空のベテランパイロットがイギリスで逮捕されるという事件が起きた。このたび法廷で、逮捕されたパイロットの乗務前日の飲酒の実態が明らかにされた。
カラチを本拠地とする「パキスタン国際航空」のアーファン・ファイズという55歳のベテランパイロットが、さる9月にイギリスで飲酒状態であるとして乗務を外され、フライトが遅延となるアクシデントが起きた。英リーズ・ブラッドフォード空港からパキスタンのイスラマバードに戻るエアバス310型機を操縦するはずであったが、アルコール呼気検査により基準値の3倍もの値を示し、足取りもフラフラしていたため、現地に抑留される事態となっていた。
飲酒については多くの航空会社が厳しい規定を導入しており、安全輸送のためにパイロットほか乗務員はフライトの12時間前より飲酒を禁じられている。パイロットがアルコール呼気検査にひっかかり、乗務を外されることでフライトに支障をきたすことが度々起きていることから、これまで飲酒禁止時間をフライト8時間前からとしていた会社も12時間前に改定する傾向にあるという。
このほど「リーズ・クラウン裁判所」に出廷したファイズ容疑者は、フライトの前日の夜から乗務19時間前までウイスキーをボトル4分の3ほど飲んだという。ところが高濃度のアルコールを大量に摂取したため、19時間後であっても呼気検査をすれば基準値を大幅に超える値が検出されたと見られている。
ファイズの弁護士は、「ファイズは25年の乗務経験において、普段は深酒などしないため飲酒についてそんなに厳しい規定があったことを知りませんでした。(2人の子供の父親であるファイズは)『子供を誘拐する』という脅迫を受けており、最近かなりのストレスを溜めていたのです」と弁明。しかし判事は、「そのアルコールの影響下で操縦桿を握り、イスラマバードに飛んでいたとしたら大変な事故が起きていた可能性すらあった」とそれを受け入れなかった。
パキスタン国際航空における社員教育や安全管理の意識が、かなり甘いことをうかがわせる今回の一件。イギリスでは、酔って飛行機の操縦席に座れば刑務所行きになるとのこと。アルコール呼気検査の数値についても、パイロットは車のドライバーより4倍ほど厳しい基準値が設けられているそうだ。
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)