ピカソ、マティス、シャガール、クレーなど1500点にも及ぶ世界的に著名な芸術家達の作品が、ミュンヘンに住む80歳代の一般男性の自宅から発見された。これらは全て第二次世界大戦時にナチス・ドイツによって各国から奪われたものであり、その価値は10億ユーロ(約1300億円)にも及ぶと言われている。
専門家の調査によると、これらのうち300点はナチスが道徳的・人種的に堕落した「退廃芸術である」と見なし押収したもの、あるいはユダヤ人の収集品がナチスによって奪われたものであることが判明している。また少なくとも200点は、奪い取られた各国あるいは個人によって捜索依頼が出されているものであるという。
こうした芸術作品を、なぜ一個人が所有していたのか。『FOCUS Online』によると、1930年代から40年代にかけて美術商として活動していた男性の父親が、各地でナチスが奪い取った芸術作品を買い取ったそうだ。だが美術商の息子であるこの男性は、戦後も作品の所持について申請することをせず、50年以上もの間、自宅のゴミで溢れかえった部屋の中に作品を放置していた。男性はいくつかの作品の売上で現在まで生活を続けており、警察の手入れ後にもドイツの画家ベックマンの作品をケルンのオークションハウスに出し、約86万ユーロ(約1億1000万円)で落札されていたことが分かっている。
この男性の行いは組織的なものではなく個人によるものであったため、その存在はドイツでも知られておらず、当局による監視も全く行われていなかった。しかし2010年、スイスからドイツに向かう列車の中で税関職員に所持金額の提示を求められたことがきっかけとなる。その後、警察による捜査が進められた結果、2011年春に男性の自宅が家宅捜索されることとなり多数の芸術作品が見つかったのだ。この捜査は非公開で進められていたが、今になってようやく公開されることとなった。
男性が所持していたこれらの作品は、保管のためバイエルン州の税関で押収が進められている。男性が逮捕されたとの報道はされていないが、税金滞納の疑いが持たれており捜査が続行中だ。
(TechinsightJapan編集部 椎名智深)