EU発!Breaking News

writer : shiina

【EU発!Breaking News】記憶を風化させない。被災地児童施設支援チャリティコンサート開催レポート。(ドイツ)

東日本大震災から2年。復興が遅々として進まない地域のある一方で、被災地から遠く離れた地ではその記憶が過去のものとして日に日に風化していくようにも感じる。記者が暮らすドイツでも、震災直後こそ被災者支援のための様々なチャリティイベントが行われていたものの、現在では残念ながらそうした機会もほとんど見受けられなくなっている。

だがそうした中、今月9日にドイツ南西部の街ロイトリンゲンで、震災被害に遭った岩手県一関市の児童養護施設『藤の園』を支援するチャリティコンサートが開催された。海外で行われた被災地支援ボランティアの一例として、その様子をお伝えしたいと思う。

このチャリティコンサートは、ロイトリンゲン市で通訳そして日本語教師として働くコブラー枝松澄江さんが主催となり、児童養護施設『藤の園』支援のために開催したものである。

枝松さんが『藤の園』のことを知ったのは、震災直後にロイトリンゲン市で行われた広島少年合唱団のコンサートで通訳を行った際、合唱団の団長から「今回の入場料及び寄付金は、ドイツ人シスターであるクリスタ・マウエルさんが園長として勤める『藤の園』に全額寄付します」という話を聞いたことがきっかけであるという。

これにより『藤の園』に関心を持った枝松さんは昨年、個人的に訪問する機会を得た。そしてマウエル園長から直接、震災による施設損傷の様子や援助を要請しても内陸部であるためなかなか手が回らなかったこと、様々な背景を持つ子供たちの入居があとを絶たず、支援が必要な状況を知ったそうだ。

枝松さんによる被災地状況の説明

その後クリスマスなどの機会を利用して寄付金を募っていたところ、枝松さんの友人であり日本語の生徒でもあるピアニストのジュディット・フェレールさんが、「『藤の園』のためにチャリティコンサートを行って、そこで私たちが演奏するというのはどうだろう?」と提案したことが、今回のコンサート開催の契機となった。フェレールさんの呼びかけでソプラノ歌手ウィルマ・ルエダさん、そしてロイトリンゲン市の交響楽団でバイオリニストとして活躍する柳垣智子さんの参加が決定、また枝松さんの友人たちが協力し、寿司などの日本食を準備することとなった。

コンサート後のお楽しみ、日本食を楽しみながらの歓談

9日午後、コンサート会場となったロイトリンゲン市郊外のキリスト教系の施設にはドイツ人や現地に住む日本人など多くの観客が集まっており、被災地支援に対する関心の高さがうかがわれた。

約1時間にわたって行われたコンサートはフェレールさんとルエダさんの母語スペイン語の歌から始まり、『荒城の月』や『からたちの花』などの日本語の歌、フェレールさんのピアノソロの後に柳垣さんのバイオリンが加わりクライスラーなど数曲、そして岩代太郎氏作曲の『素晴らしき日々へ』で締めくくられた。アンコールでは日本の名曲『さくらさくら』が披露され、素晴らしい歌と演奏を披露したフェレールさん、ルエダさんそして柳垣さんには客席から割れんばかりの拍手が贈られた。

取材をする中でとても印象的だったのは、『チャリティ活動』『ボランティア』といった言葉から連想される深刻な雰囲気が良い意味で全くなく、主催者側、観客側共にこのイベントを心から楽しんでいたことである。演奏後、枝松さんから『藤の園』訪問の経緯や陸前高田などの被災地で見聞した深刻な状況の説明がされた時の雰囲気はさすがに重くなっていたものの、その後は和やかなムードでそれぞれが寿司などの日本食に舌鼓を打ち、お喋りに花を咲かせるなど楽しんでいたようだ。

環境保護に対する個々の意識が高いドイツでは、チェルノブイリ原子力発電所事故による影響を受けた経験もあり、東日本大震災を契機に原発反対運動が非常に盛んになっている。だが東日本大震災被災者に対する支援はといえば、残念ながら日本に縁のある人以外は興味を持っていないと感じるのが事実である。

またドイツは本来寄付活動が盛んなお国柄であり、世界のどこかで災害が発生した際には寄付金の受付先がテレビや新聞ですぐに提示されることが多い。だが東日本大震災直後は、福島原発に関するニュースが日々報道される一方で、多くの人が知りたがっていた募金に関する情報は、ほとんど報道されなかった。そのため「何か手助けをしたいが、何をすればいいのかわからない」という声があらゆるところで上がっており、実際に記者も友人数名から同様の質問を震災直後にいくつか受けている。

しかし一方では、寄付をしたとしても本当に被災者のもとに届いているか明確にならないことも多く、さらに募金と偽る詐欺も少なからず横行している。「以前の阪神・淡路大震災の時もそうした詐欺が発生したんです。だから寄付金が本当に被災者に届けられるか、あるいは被災者のために使われるのか、疑心暗鬼になっているドイツ人はとても多いんですよ」と枝松さんは話す。

そうした状況を知っているからこそ、枝松さんは集められた寄付金は全額『藤の園』に直接振り込むと明確に打ち出している。個人で行っている支援活動であるためにできることは限られてしまうものの、それは逆に寄付金の送り先を一つに絞り、また寄付金の管理を厳格に行えるという長所にも繋がっているため、枝松さんの支援活動に信頼を寄せ協力する人も徐々に増えているようだ。

「まだ復興とはほど遠い状況にある被災地、そしてそうした中で暮らす被災者のことを忘れ去られてしまうのが一番辛い。記憶を風化させないためにも、これからも機会を見つけ、私たちにできる範囲で活動を続けていきたいと思っています」と、遠く離れた地で被災地に向けて今後もエールを送り続けると枝松さんは語った。
(TechinsightJapan編集部 椎名智深)