スタジオジブリの鈴木敏夫氏が、東日本大震災後にドキュメンタリー『friends after 3.11』を発表した映画監督の岩井俊二氏と震災や原発問題について対談した。岩井氏が「避けては通れない」と話すように、2人の会話も深く踏み込んだものとなった。
映画プロデューサーでスタジオジブリ代表取締役の鈴木敏夫氏のラジオ番組『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』では、新年1月8日に映画監督、岩井俊二氏との対談を放送した。岩井俊二氏は宮城県仙台市で生まれ育っている。やがてドラマなどに関わって活躍すると、2005年からは米ロサンゼルスに拠点を移してハリウッドで映画撮影を行うなど活動の場を広げた。
2011年3月11日に東日本大震災が発生すると、岩井氏は日本へ戻り震災後の日本に対して「私たちが今考えうることは何か」を追求した活動を行っている。映画監督として彼の名を知らぬとも、若年層にはAKB48のドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』の製作総指揮を行った人物と言えばその力が分かるのではないだろうか。
岩井氏は「5月3日に被災地に入りカメラを回したが、その時は作品にしようとの発想は無かった」と変わり果てた故郷を目にした時の心境を話した。しかし原発問題なども大きくなる中で、彼は「等身大のレベルとして無視しては活動が続けられない」と決意して10月にドキュメンタリー動画『friends after 3.11』を発表したのだ。
鈴木敏夫氏は被災地を扱ったその動画を見て驚いたという。映画監督として、震災に直接触れた作品を表したのは彼が初めてだったのかもしれない。その岩井氏が現在、日本映画専門チャンネルで岩井俊二映画祭『映画は世界に警鐘を鳴らし続ける』を開催中なのだ。
同映画祭は“映画監督・岩井俊二が自ら選定した映画作品を届ける”という内容で、1月には黒澤明監督の「生きものの記録」や小松左京原作の名作を映画化した「日本沈没」(主演は藤岡弘)、核戦争を扱って世界的に話題となったアニメーション映画「風が吹くとき」などが上映される。
2月に予定されている作品にあるのが、石ノ森章太郎原作の短編漫画を映画化した劇場用アニメ映画「空飛ぶゆうれい船」だ。1969年に公開された時は“東映まんがまつり”で「飛び出す冒険映画 赤影」、「ひみつのアッコちゃん」、「もーれつア太郎」と同時上映されている。しかしその内容は巨大資本がCMを操って国民を洗脳していくなどの痛烈な社会批判であり、それを子ども向けの映画として流すのだから当時の業界の懐の深さを感じる。
同作品はジブリの生みの親である宮崎駿氏が原画スタッフの一員として参加しており、鈴木敏夫氏も関心が深いはずだ。その彼でさえも改めて観なおすと「空飛ぶゆうれい船は凄い。セリフなんかも恐ろしいことを言ってるね」と話しており、その本質に感動していた。
鈴木氏は“ジブリ”としても3月11日の震災後にはいろいろと考えるところがあったと話す。震災前の2010年には福島第二原発のエネルギー館にあった店舗でジブリグッズを販売していたことで賛否があり、9月には閉店している。この時のことを振り返った鈴木氏は「福島原発でジブリのショップがあるなんて知らなかった。分かるとすぐに『そぐわないから』と反対した」と言う。しかし彼の元へ寄せられる声は「80%は“原発は安心だ”と言っていた」と、閉店に反対されたことを明かした。
また、ジブリ作品の中にも破滅へと向かう未来を描き、現代に警鐘を鳴らす内容が少なくない。「風の谷のナウシカ」もそのひとつなのだが、鈴木氏は震災後にその封切り日が3月11日だったことに気づいたのである。因縁のようなものを感じたのだろう、彼は宮崎駿氏にそのことを伝えた。すると、宮崎駿氏は「えっ…」と絶句したという。
世界的に知られる映画『ゴジラ』(シリーズ1作目)は核を批判した内容だったが、やがてシリーズが進むにつれてエンタテインメント的なものに変化して行く。岩井氏はそのように現在も核によって未来が脅かされる内容の映画は多いが、もはや警鐘を鳴らすためではなく「ステージとして利用しているだけ」だと説く。彼は震災が起きた日本の映画監督として「ここで沈黙すると本当に利用しただけに終わる」と考えて動き出したのだ。
放送で語られた『流れるニュースを見ているだけでは、ますます波にさらわれそうになる今。時代を超えて生きる映画は、私たちの羅針盤となるのかもしれません』という解釈には、2人の訴えたいところが凝縮されているのではないだろうか。
“羅針盤”となるであろう映画の数々は日本映画専門チャンネル「岩井俊二映画祭“映画は世界に警鐘を鳴らし続ける”」(http://www.nihon-eiga.com/iwaishunji/)で2月23日まで順次上映される。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)