先週22日に発生した、ノルウェーの首都オスロとその近郊ウトヤ島でのテロ事件により、ノルウェー中は現在でも大きな悲しみに包まれている。また、このテロ事件に関するニュースはノルウェーはもとより、欧米各国でも連日大きく報道されている。
オスロ中央部の官庁街で発生した爆発テロ、そしてその後の、ノルウェー労働党青年部がウトヤ島で開催していた若者のためのキャンプでの銃撃では、今日までに93人の命が奪われたことが明らかとなっている。このテロ事件の犯人は最初、イスラム過激派に属する者ではないかと推測されていた。だが犯人として逮捕されたのは、極右思想の持ち主である32歳のノルウェー人、アンネシュ・ブレイビクであった。
ブレイビクは 特にイスラム諸国からやって来た移民の排斥や多文化共生の否定を主張しており、Facebookの自分のページでは『保守的なキリスト教信者』の欄にチェックを入れていたり、政治的煽動のためにインターネット上で1516ページにも及ぶ自分自身の超保守的な主張を公開するなどしていた。だがニュースで取り上げられる写真に写るブレイビクは、これといって特徴のない一ヨーロッパ人の風貌の持ち主であるため、テロといえばイスラム過激派という、やや偏見に近い考えを持つ人が多いヨーロッパ人の中には、「まさかこんな普通っぽいノルウェー人が、自分の国でテロを起こすなんて」と驚く人も少なからず存在している。
犠牲者の中には、ノルウェー王太子妃メッテ=マリット妃殿下の義理の兄であるトロン・ベルンステン氏も含まれていたことも、衝撃に拍車をかけている。警察官であるベルンステン氏は、事件の発生した7月22日はちょうど休暇中であり、家族と共に偶然ウトヤ島のキャンプに参加していたのだが、10歳になる自分の息子を銃撃から庇おうとし、自身が銃の犠牲となってしまった。
このテロ事件で驚くべきは、ノルウェー警察の怠慢とでも言うべき対応である。ウトヤ島での事件発生直後、1人のキャンプ参加者が警察に連絡をしたのだが、初めは全く相手にされなかったそうだ。その後一連の事件に関する通報を受けた警察が本格的に動き出したのだが、中央部への応援要請などで時間がかかり、結局ウトヤ島に到着したのは、事件発生からなんと1時間半もの時間が経過した後だった。考えてみれば、官庁街からウトヤ島までの約40キロメートルを、犯人をノーマークで容易に移動させたことからもその対応の遅さはよく分かる。警察が迅速に行動していれば、ウトヤ島での事故は全く発生しなかったか、少なくとも最小限に防ぐことが出来たのではないだろうか。
また、ブレイビクは既に要注意人物であったにもかかわらず、警察は彼に対する監視を怠っていたこともあり、ノルウェー警察のこうした一連の対応の悪さは、今回の事件で特に非難の的となっている。増加する移民による問題がヨーロッパ各地で発生していることは、残念ながら決して否定できない。
だが、暴力やテロで一体何が解決出来るというのだろうか?マイナスはマイナスしか生み出さない。その過程で犠牲になるのは、何の罪もない一般市民がほとんどなのだ。早急な問題解決への道のりは険しいだろうが、ノルウェーを包む悲しみが少しでも早く晴れることを、そして犠牲者のご冥福を、心よりお祈り申し上げたい。
(TechinsightJapan編集部 椎名智深)