(ジャンル:クラシック)
クラシック音楽界における年末恒例行事のひとつがベートーヴェンの第9演奏会である。
終楽章に壮麗な合唱を伴うこの作品はライブでこそ真価を味わうことができ、年末の第9上演をまとめ聴きしておけば、CDがなくてもよいくらいだが、あえて持っていたい名盤ということで、2000年代年録音のサイモン・ラトル指揮ウィーン・フィルによるディスクである。
この曲は、戦後長らくの間、1951年録音のフルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団による録音が決定版として君臨しており、この演奏を超えるものは表れないとまで言われていた。
何を持って「超えたか」とするかは、リスナーの感動の質の総和を持って評価するしかないのだが、客観的な要因として挙げるべきなのは録音の質と音響の良さである。
少し古い録音だと、合唱が他人行儀な響きで鳴っているものが目立つが、この録音はオーケストラと合唱が一体となって音楽に打ち込む姿がリアルに捉えられており、音質面と空気感の面から見ても、ラトル盤は極めて素晴らしい。
このディスクの再生はオーディオ装置を選ぶと思われる。貧相なシステムでは合唱が喧しく感じられることになるかもしれない。
また、第1楽章における天が崩れ落ちるかのような主題の提示も凄まじい。こうした劇的な表現が随所に見られるが、これは1960年代以降の新即物主義的な演奏スタイルが主流だった時代にはほとんど見られなかったものである。
テンポの扱いや強弱などについても、ラトル独自の解釈が施され、ある個所では楽譜に忠実であったり、別の個所では伝統に反して楽譜とは微妙に異なる解釈であったりなど、この曲の平均的な演奏に慣れた耳には、極めて新鮮である。
第9は、年末の風物詩だけではなく、日本人の基礎教養のレベルにまでなっているので、複数の録音を聴き較べてみるのも楽しいだろう。
昨年紹介した、演奏時間が平均より10分以上も速く、モーツァルト的な世界を描いたガーディナーの演奏や、冒頭に紹介したフルトヴェングラーの1951年録音、そして今ではヒストリカルになってしまったカラヤンの軽快な演奏など、CDやMP3音源が安価で入手できるので、ぜひ聴き較べてみてほしいものである。
(収録曲)
1. 交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱」 第1楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ・ウン・ポコ・マエストーソ
2. 交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱」 第2楽章:モルト・ヴィヴァーチェ
3. 交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱」 第3楽章:アダージョ・モルト・エ・カンタービレ
4. 交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱」 第4楽章:プレスト~アレグロ
5. 交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱」 第4楽章:プレスト~レチタティーヴォ “おお、友よ~”
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)