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【名盤クロニクル】これはパンクだ!ガーディナーの「ベートーヴェン第9【合唱】」

(画像提供:Amazon.co.jp)

クラシック音楽の世界には神聖不可侵とされている曲がいくつかある。その中のひとつが年末恒例のベートーヴェン交響曲第9番「合唱」であろう。この曲は通常、壮大かつドラマティックに演奏されて、聴く者を歓喜の世界へ誘うものだが、そうした演奏に新たな光を当てた、斬新を通り越してパンクな破壊力を持つ演奏がこのガーディナー指揮の演奏である。

ベートーヴェンは、音楽史上では古典派からロマン派への橋渡しをした作曲家ということになっているので、この「第9」についてもロマン派的な壮大さを持って演奏されることが多い。というか、そういう伝統になっている。

しかし、ベートーヴェンは先輩であるモーツァルトと同じ18世紀に生まれ、古典派の語法を引き継ぎながら、斬新な音楽を創造し続けた人である。そこで純粋に古典派の語法で第9を演奏してみようという試みが、このガーディナーの演奏である。

この古典回帰という試みは、ロック的にいえばパンクの思想である。巨大化した音楽に反旗を翻し、シンプルで明晰な演奏を試みたのである。

さて、このガーディナーの演奏だが、テンポが恐ろしく速い。クラシック音楽の伝統では70分近くかかるこの曲が、60分弱で終わってしまう。まさしく疾走する演奏である。

第4楽章で歓喜の合唱が一度クライマックスを迎えた後に現れる「行進曲」は、まるで鼻歌を歌いながらスキップでもしているようだ。

歓喜の大合唱も、ガーディナーの手にかかるとまるでモーツァルトのオペラでも聴いているような気分になってしまう。

およそ、この曲にまとわりつく「神聖」とか「深遠」とか「精神性」といったものをはぎ取り、純粋に古典派シンフォニーとしての演奏に終始しているのがすがすがしい。

ありきたりの第9には飽きたという人は、ぜひこのガーディナー盤を入手して聴いてみて欲しい。目からウロコの新鮮体験が味わえるだろう。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)