writer : techinsight

【親方日の丸な人々】公務員スト権もし実現すれば

よく知られているように、現在、公務員には労働三権のうち団体争議権つまりスト権がない。
これを是正しようということで、民主党政権下で新たにスト権を付与しようという動きがあるようだ。
実際にはポーズだけ、良くて法案を提出するだけで終わるであろう。関連法令の改正作業が膨大になり、実現は困難だからである。国家財政危急の折りに、なぜこうした動きがあるのか、そして実際にスト権が付与されたらどうなるのかを考えてみたい。かなりドタバタになることは必定だからである。

公務員のスト権と言えば、戦後労働運動史にその名を刻む、旧国鉄組合員を中心とした1975年の「スト権奪還スト」が想起される。(なお、奪還というのは官公労側から見た場合の用語である。実際には与えられていないので奪還ではない)

国民生活に多大な打撃を与えることでスト権を勝ち取るとして、実施された違法ストは、結果的に多少の混乱はあったものの、大打撃とはならず、組合の親方日の丸体質が顰蹙を買っただけであった。

その結果、国鉄民営化・総評解散という流れになるが、今回話題に上っているスト権付与案は、その35年前の官公労の怨念を晴らすためのものであると見られる。

もちろん、スト権剥奪が労働法学的に問題であることは、従来から指摘されているが、緊急の政策的課題とは言い難い。

ところで、実際にスト権が付与されたらどうなるかというと、実は官公労も困るのである。

公務員には、原則として懲戒以外の理由で解雇にはならないという、「身分保障」が与えられているが、官公労は「身分保障は堅持しつつ」スト権を手にしなければならない。

これに関して国民の理解を得るのは至難の業である。身分保障とバーターでのスト権ならば、不要だという声が組合員からも上がる。

また、官公労の組織率は年々低下しつつある。ところが、労働条件をストによって勝ち取るとするならば、組織率は100%に近い数字を目指さねばならない。

現在の官公労については、加入するもしないも自由というオープンショップ制が採られているが、こちらも見直す必要があるだろう。

そして、実際にストを実施することになったら、労組が最も警戒しなければならないのは、スト破りである。

というのも、使用者である国や自治体は、スト参加者に対して、報復人事を実施することができるからだ。

名目上、通常の人事であっても、本人が希望しない部署への配置換えや、受験期の子息を抱えた職員の遠隔地への転勤発令などが行われる可能性がある。

これを怖れる組合員は、ストを破って出勤する者が出始める。

当然、組合規約に基づき懲罰措置が行われるから、この二重拘束に耐えかねた組合員が第2組合の結成に走る可能性もあるだろう。

そして、最もトホホなのが、一般職の公務員が数時間~半日のストを決行しても国民生活に大して影響は出ないということである。

現在はお役所業務の多くが情報システム化されているので、管理職がシステムを操作して行政サービスを継続すれば事足りる。
人員が足りなければ、管理職を多少増やせばよいだけだ。

35年前と異なり、鉄道、郵便など物流にかかわる機関は民営化されている。

こうした諸事情を総合すると、むしろ労組にとっては「パンドラの箱」となる可能性が十分にあり、35年前の怨念が晴れただけという気分の問題だけになりそうだ。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)