「亡くなってからも差別を受けるなんて…」とショックを隠しきれない家族。ボルドー地方のジロンド県で亡くなった女性が、生前に火葬を希望していたにも関わらず、彼女の棺が大きすぎてその地域の火葬炉に入らないという事態が発生した。これに対し、太っている人への侮辱として家族がメディアに訴え、現在フランスで物議を醸している。
今の時代60代と言えば、まだまだ現役、老後なんて20年先という感覚がある。そんな世代の63歳の若さで、先日、あるフランス人女性が亡くなった。夫と共に夜中の1時半に床に就いた彼女はその15分後に突然この世を去った。お別れの言葉を告げることもできず、本人にとっても家族にとっても、さぞ無念だったに違いない。いつものように愛する人に「おやすみ」と言って、翌朝当たり前のように目覚めるということがどんなに幸せだったか、この家族は身をもって知ったのである。
彼女は生前から、自分にもしもの時があった場合には埋葬ではなくて火葬にしてほしいと家族に話していた。家族はその彼女の望みどおり、受け入れる火葬場を探したのだが、そこで全く想像もしていなかったことが起きた。それは、ボルドー地方の全ての火葬場の火葬炉が、彼女の棺よりも小さかったのである。火葬炉の幅が80センチなのに対して、生前体重が140kgだった彼女の棺の幅は83cmだった。たかが3cm、されど3cm。残された家族のために何とかしようとしても、火葬場の管理者は物理的に不可能と判断した。大きいサイズの棺は問題なく購入できたのに、その棺が入らない火葬炉があることに納得のいかない家族達。
そんな中、愛する妻、そして母の最後の望みを叶えてあげられないとメディアに訴えた家族に、救いの情報が届いた。250km離れたミディ=ピレネー地域のオート=ガロンヌ県の県庁所在地であるトゥールーズ市の火葬場に規定外サイズの棺が入る火葬炉があるということであった。さっそく家族が連絡を取ると、受け入れ可能ということで、最終的にそこで問題なく葬儀を行うことができたのだった。しかし、少ない年金で暮らしている夫をはじめ、所得の少ない家族にとっては、交通費など思いがけない出費が重なった。そもそも事の発端は、全ての人々を受け入れるシステムを持っていないボルドー地方の火葬場に問題があるとして、今後、告訴をする構えだと言う。
生きている人の望みを叶えることと同じか、もしくはそれ以上に、亡くなった人の望みを叶えたいと思うのは、人の心である。今回の出来事は、肥満人口が決して少なくないフランスで今まで隠れていた意外な問題が浮き彫りとなった形である。これをきっかけに、せめて各県に一ヶ所は大きいサイズの棺が入る火葬炉の設置を義務付けるようにすれば、亡くなった彼女も浮かばれるのではないだろうか。
(TechinsightJapan編集部 福山葉月)