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【名盤クロニクル】強面ジャズ チャールズ・ミンガス「道化師」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:ジャズ)

ジャズという音楽の属性に「お洒落」「ムーディ」という要素が定着したのは、1980年代以降のことであり、それ以前はそうしたジャズはイージー・リスニング・ジャズとか軟弱ジャズとか呼ばれて馬鹿にされていた。

そのお洒落なジャズの対極にある強面ジャズの代表的な作品として、チャールズ・ミンガスの1957年の作品「道化師」を紹介したい。

チャールズ・ミンガスは1922年生まれの達人ベーシストであり、チャーリー・パーカー、マックス・ローチらと並んで、1940年代のビ・バップ勃興期を支えた重要人物である。

ビ・バップ収束後は、独自の道を歩み、1956年にジャズ史上名盤100選に必ず加えられる「直立猿人」を発表した。

この「道化師」はその翌年1957年に発表された作品であり、前作のイメージを踏襲しているとはいえ、実はこちらのほうが市井のジャズファンの間では、人気のようだ。

どちらも決してわかりやすい音楽とは言えず、当時の基準でみればかなりの前衛ジャズに分類されるが、このアルバムには衝撃的かつキャッチーな「ハイチ人の戦闘の歌」初演が収録されている。

この曲は、スタジオ版で聴くよりも、ブラスセクションを増強したライブ版で聴いたときに真価が良くわかる。

まさしく咆哮ジャズとしか表現しようのない迫力でありながら、高い次元で音楽的に演奏されているのである。

頻繁に変わるテンポ、トロンボーンやサックスのアブストラクトな叫び、そしてミンガスの重厚なベースソロ、どれをとってもハードコアなジャズの一級品である。

もうひとつの白眉は、3曲目「ラヴバードの蘇生」である。前衛的なアレンジとアーシーなフィーリングの統合が素晴らしい。

かつて、暗いジャズ喫茶の紫煙の中で気むずかしい顔をして聴き入っていた往年のジャズマニアの方には、加齢に負けないためにも、青春の日々を思いだして聴きなおしていただきたい。

また、ジャズ以外のフィールド、特にフランク・ザッパのファンにはオススメである。楽曲の複雑さと強烈な批判精神において、ザッパとミンガスは共通項があるからだ。

(収録曲)
1 ハイチ人の戦闘の歌
2 ブルー・シー
3 ラヴバードの蘇生
4 道化師
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)