writer : techinsight

【名盤クロニクル】苦虫をかみつぶして聴くジャズ チャールズ・ミンガス「直立猿人」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:ジャズ)

現在、ジャズといえばオシャレでエレガントな大人の音楽またはハッピーになる音楽という位置づけになっていて、決して苦虫をかみつぶして聴くようなものではない。
しかし、かつてジャズにおいてはしばしば、苦虫をかみつぶしたような顔をして聴くのが上等だという伝統があった。その代表格ともいうべき名盤が、今回紹介するチャールズ・ミンガスの「直立猿人」である。

チャールズ・ミンガスは、1940年代から活動している名高いベーシストであるが、甘さや優しさを徹底的に排した音楽を創造し続けた。

バンドメンバーにも、いわゆるお調子者系のミュージシャンを嫌い、エリック・ドルフィー、ローランド・カーク、ジミー・ネッパー、ジャッキー・バイヤード、マル・ウォルドロンなどの、どちらかといえばコワモテ系を起用している。

加えて、ミンガス本人が一番のコワモテなのであるから、音楽も相当なコワモテになる。

このアルバム「直立猿人」は、ジャズ名盤豊作の年と言われる1956年に録音されており、内容も素晴らしいので、ジャズ入門名盤の1枚に数えられるが、間違えても現在主流のムードとハッピネス重視のジャズを聴きたい初心者に勧めるべきではない。

それでもチャールズ・ミンガスのアルバムの中では、本作が一番馴染みやすいので、ミンガスを聴いてみようという人がいたら、迷わず本作から入るべきであろう。

現在50歳以上の人なら知っていると思われるが、日本には「ジャズ喫茶」という独自の文化があって、ミュージシャンの卵から評論家・文筆家などの文化人、思想好きな学生などがたむろする一大文化拠点になっていた。

そこでは、薄暗い空間の中で今では考えられないほどモウモウたる紫煙にまみれながら、珈琲を飲んで、「苦虫をかみつぶしたような顔で」こうしたジャズが大音量で聴かれていたのである。

もちろん、ジャズ喫茶にもさまざまな顔があり、ムード重視の店もあれば、会話ができない(禁止されている)大音量ジャズを流す店などがあった。

今ではほとんど聴かれなくなった、硬派ジャズの名盤として、殿堂入りしているアルバムである。毎日聴くようなヤワなアルバムではないが、年に一度くらいは「漢」なジャズとして堪能してみてもよいのではないだろうか。

(収録曲)
1. 直立猿人
2. 霧深き日
3. ジャッキーの肖像
4. ラヴ・チャント
(TechinsightJapan編集部 真田 裕一)