東京の新宿と八王子などを結び、高尾山や東京競馬場へ直通する鉄道としても知られる京王線。その象徴とも言うべきアイボリーの車両「6000系」が、間もなく姿を消す。前稿では6000系引退の理由に迫ったが、今回は引退した車両の「その後」について特集する。
今夏、中年男が一念発起し電車の運転士を目指す映画『RAILWAYS』が中井貴一主演で公開されたが、映画を見て鉄道ファンならずとも「懐かしい!」と思った人は多いのではないか。そこには、かつて京王線を走っていた「5000系」や南海電鉄の「ズームカー」が、黄色の塗装で島根・一畑電車を走っているからだ。
昨今、こうした鉄道車両の譲渡は各地で行われている。東京や大阪など大都市の通勤型電車が、車両の入れ替えで役目を終えた後、地方の鉄道路線に転売もしくは譲渡され、再び営業運転を行っているのだ。経営の苦しい地方鉄道にとっては、車両を新造するよりも中古の車両を購入する方がコストを抑えられ、尚且つ鉄道ファンや観光客へのアピールにもつながる。
SLの運行が有名な静岡の大井川鐡道では、SL以外の在籍車両が全て関西の大手私鉄から譲渡されたものだ。近鉄や京阪電鉄でかつて特急として走っていた車両が並走し、鉄道ファンからは「車両博物館」と呼ばれている。また、長野電鉄では旧営団地下鉄日比谷線の銀色車両が普通電車として走り、特急はかつて小田急のロマンスカーだった車両が使われている。
かつて満杯の通勤客を乗せて大都会・東京を走っていた車両がのどかな田園風景をバックに走る光景は感動的だ。京王でも1996年に引退した5000系は、山梨・富士急行や愛媛・伊予鉄道などに譲渡され、各地でなおも現役で走り続けている。
しかし、このほど引退を迎える6000系は、こうした譲渡例を全く聞かない。一体なぜか。その理由と、引退後の”進路”について、京王電鉄に取材した。
広報担当者によると、確かに今年9月現在で6000系を譲渡した例は一件もなく、全て廃車しているという。廃車後は東京・稲城市にある京王電鉄の若葉台検車区にて解体作業が行われ、車体に使用されている鉄をリサイクルするとのことで、その他の部分については基本的に廃棄したり、「鉄道部品」としてファン向けに販売されるものとみられる。
5000系より新しい6000系は、なぜ譲渡されないのか。京王電鉄によると、車体の大きさがネックになっているという。
5000系は1両あたりの長さ(=車長)が18mの「中型車」であったが、6000系は1両あたり20mの「大型車」を採用している。現在、都市部の通勤電車は殆どが20m車で、それを連結し8両編成や10両編成などで運転している。
それに対して、旅客輸送者数の少ない地方の鉄道では、1両編成や2両編成が主流だ。従って車長も18mの車両が多く、20mだとホームをはみ出してしまったり、エネルギー効率が悪くなったりと、何かと都合が悪いのだ。そのため、6000系のような大きな車両の需要がないということだ。
京王電鉄によると6000系を欲しいという地方鉄道会社からの申し出は一件もなく、今後も譲渡の予定はないという。6000系より20年以上前に製造された5000系が今も現役で走り続ける一方、6000系は半年後には全て廃車となり、スクラップされてしまうのだ。立派すぎるゆえに再使用されずに廃車とは何とも皮肉なものだ。
京王電鉄では今後、既存の7000系のVVVF化を進めるとともに現在8両編成となってる車両を再編成し10両化していくほか、同様に経年劣化が進む京王井の頭線「3000系」についても、新型車両への置き換えを進めていくという。普段何気なく乗っている電車から見る、地方と大都市の格差。これからますます広がっていきそうだ。
写真はいずれも撮影:鈴木亮介
(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)