東京の新宿と八王子などを結び、高尾山や東京競馬場へ直通する鉄道としても知られる京王線。その象徴とも言うべきアイボリーの車両「6000系」が、間もなく姿を消す。京王の顔として長年親しまれてきた6000系の功績を振り返るとともに、引退の理由に迫る。
まずは6000系の説明から。写真をご覧いただければ、沿線住民でなくても「あぁ乗ったことがあるな」という人は多いだろう。
6000系は1972年に京王初の大型車として導入された通勤型電車だ。当時は多摩ニュータウンの入居が進み、沿線住民の急増とともに激しさを増す通勤ラッシュへの対応が迫られていた。従来の18m・片側開きの中型車より一回り大きい20m・4扉両側開きの大型車の導入により、路線延伸にも拍車がかかり、2年後の1974年には京王相模原線が京王多摩センターまで延伸した。
また、1980年から始まった都営地下鉄新宿線との乗り入れでも6000系が使用され、次世代のステンレス車7000系の登場後も、1991年には通勤ラッシュ対策として5扉車が製造されるなど、およそ30年間にわたって京王線の中核を担ってきた車両である。
そんな6000系も、90年代以降は徐々に新型車両の台頭により、特急や急行などの運用からは外れる。そして2001年より「9000系」という新型車両の導入が始まると、それにとってかわる形で6000系の引退・廃車が始まる。
6000系の引退理由は二つある。一つは、経年劣化だ。一般に通勤型列車の寿命は30年程度と言われている。オレンジの電車として有名なJR中央線の201系も1980年代に製造され、およそ30年を経た今E233系への置き換えが進み、ほとんどの車両が引退している。
京王電鉄によると、6000系を引退させ9000系に置き換えることで、車内のバリアフリー化が進むほか、電光案内板の車内設置や、シートや車壁がきれいになることで快適性も向上するという。
そしてもう一つ、廃車を急ぐ理由は省エネ対策だ。90年代より鉄道各社ではVVVFインバータと呼ばれる電力変換装置を通勤型電車に採用しており、これにより従来かかっていた抵抗器の発熱による電気エネルギーの浪費が抑えられ、大幅なエネルギーの節約が実現するのだ。
京王電鉄でも1992年に導入した「8000系」よりVVVFを導入しているほか、既存の「7000系」についても改修によりVVVF化を進めている。京王電鉄によれば、今年9月現在、京王線・井の頭線の全車両のうち91%がVVVF化を完了しており、VVVF車両が一台もなかった1990年に比べて30%もの電力消費量の削減に成功しているという。
6000系は8月末に「6717F」が引退したことで、8両ないし10両編成で本線を走る電車は全て姿を消している。現在残っているのは、競馬場線で平日に東府中-府中競馬正門前を折り返す2両編成の車両が2本、動物園線で高幡不動-多摩動物公園を折り返す4両編成の車両が1本、そして平日朝ラッシュ時などに8両編成の9000系に連結し10両化するための2両編成の車両が2本の、計5本だ。京王電鉄では今年度中に6000系を全廃することを予定しており、遅くとも来年3月末までにはこれらのアイボリー車両が全て姿を消すことになる。
経年劣化が進み、電力消費量も多い厄介者は新型車に置き換えてしまおうということだ。しかし、沿線住民や鉄道ファンからは引退を惜しむ声や疑問視する声が挙がっている。
現在動物園線を走る「6722F」は、動物園線専用の「TAMA ZOO TRAIN」として運用され、車体には多摩動物公園にちなんでコアラやキリン、レッサーパンダなどの動物が描かれている。また、この車両は元々通勤型の5扉車として1991年に製造されたが、「乗車位置がずれる」「座席数が少ない」と不評で本線運用を外れたものだ。製造から19年しか経っておらず、「引退は早すぎるのではないか」と疑問視する声も挙がっている。
京王電鉄広報課もTechinsightJapanの取材に対し「子どもたちにも親しまれているTAMA ZOO TRAINをはじめ、アイボリーの車両が全て消えてしまうことで残念という声が寄せられている」と明かしたが、一方で「2010年度末までに全廃」の方針に変わりはないといい、またTAMA ZOO TRAINの廃車後、新たなラッピングトレインを運行するかについても未定としている。
引退時期は未定で、引退セレモニーなどファンに向けたイベントの実施も未定とのことで、ひとまずこの冬の間はTAMA ZOO TRAINの姿を見ることができそうだ。
ところで、こうした都市部の通勤型電車は、引退後に地方の鉄道会社に売却または譲渡され、第二の人生を歩むことが多いが、京王6000系の場合は、そうした話を耳にしない。6000系の引退後については、次稿で引き続き特集したい。
写真はいずれも撮影:鈴木亮介・10年9月
(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)