人間の可能性が無限であることを改めて思い知らされた。16年前に両手足を切断した男性が、様々な困難を乗り越えて、健常者でも大変だとされるイギリス海峡を泳いで横断することに成功したのである。
イギリス海峡を泳いで横断した人は彼だけではない。しかし、両手足がないという重度の身体障害を持っているにも関わらず無事に海峡を泳ぎきった人は彼が第一人者だ。
2人の子供を持つこの42歳の男性は1994年3月、テレビのアンテナを屋根から取り外そうとした際、2万ボルトの高圧電線に接触して落下し、両手足を切断する重傷を負ってしまった。命は助かったものの、残りの人生、大きなハンデを背負うことを余儀なくされた彼。
人生はその時どん底に落ちてしまうことも考えられるだろう。だが、彼は違った。病室のテレビで、イギリス海峡を泳いで渡る女性のドキュメンタリーを見て自分も同じように壮挙を成し遂げることを目標に持ったのだった。それからの道のりは決して楽ではなかったが、彼はそれぐらい高い目標を持たないとこのどん底から立ち直れなかったのだと言う。持ち前の前向きな明るい性格とスポーツ精神が彼に生きる力を与えたのだった。
月日が経ち、2008年、現在のスイミングコーチと出会った。その時点では彼は50mも泳ぐことができなかったという。それから厳しい訓練が始まった。多いときには週に30時間もプールでトレーニングをしたこともあったという。彼の泳法は、太ももに人工のひれをつけて、脚だけで進むやり方で、腕につけた人工のひれは前に進むためには活用できないが、全身のバランスを取るのを助けるためだという。その泳法で特訓した2年の成果が今ここにある。今月18日午前8時前(現地時間)にイギリスを出発した彼は、約34km泳いで午後9時13分にフランス北部の沿岸に無事到着したのだった。
病室で自分自身に誓ったあの日から16年。彼の乗り越えてきた試練はきっと言葉だけでは言い表すことはできないだろう。限界に挑戦するシンボルになりたかったと語った、その眩しいくらい輝く彼の姿は、ハンディキャップを背負っている人だけでなく世界中の人々に勇気を与えたに違いない。
(TechinsightJapan編集部 福山葉月)