小さな船の上に立つ漁師が、左手に遺体の手足につないだ縄を持ち、右手で“待った”をかけている。これは、2010年最優秀報道賞を受賞した写真『挾屍要價』(遺体とカネの引き換えを要求)に写る光景だ。その内容は、漁師が溺死した遺体を岸へ上げる際に、遺族から高額の“遺体引き上げ費”をせしめるというものだ。写真が捉えたのは、岸で遺体の引き上げを待つ遺族に向かって、漁師が「約束のカネ、3万6000人民元(約45万円)を受け取るまでは遺体を引き上げないよ!」とした瞬間だった。
しかし、受賞が発表された翌日、溺死した大学生が通っていた大学から、“事実が曲げられている”と各メディアに投書があり、写真の捏造疑惑が持ち上がった。
大学の宣伝部は報道の中で、漁師たちが“小型の船のために遺体を船の上に引き上げることができず、遺体が水中に滑り落ちるのを避けるため、手足に縄をつないで岸まで引っ張った”“あくまで厚意でしたことなのに社会から誤解を受け漁にも出られない”と困っていることを伝えた。
ところが、その2日後となった21日。問題の写真を撮影した記者は、取引の一部始終を収めた連続写真を公開。そこには、漁師たちが、お金が到着するまで船の上で手を休めている様子や取引を仕切るオーナーが札束を数える様子、お金をすべて数え終えた後、ようやく遺体が岸に引き上げられる様子が写されていた。
一時、受賞資格が危ぶまれた写真だが、証拠写真の公表後行われた審査で全票を獲得。その受賞を確たるものとした。
「中国文化を見事に捉えた一枚」などという言葉でまとめることさえ憚られる、心に重くのしかかる写真である。これらの写真は、昨年10月24日、3人の大学生が溺れている2人の少年を助けようとして不幸にあった際に撮られたものである。
(TechinsightJapan編集部 片倉愛)