現在、IT業界では「クラウドコンピューティング」で祭っている最中だ。散在するコンピュータ機器を一カ所に集めてネットワーク経由で共同で使おうというもので、概念自体はコンピュータの分野では特段新しいものではないのだが、とにかくコンピュータが売れるとあってしばらくはブームが続くだろう。親方日の丸の霞が関でもさっそくブームに便乗して「霞が関クラウド」という構想をぶち上げて2009年6月から検討に入った。今日はその顛末と今後の行く末について紹介してみたい。
2010年4月にブリーフィングされた「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会最終報告書~政府共通プラットフォームの構築に向けて」(PDF資料)では、クラウドという用語はあまり用いられず、政府系システムの共通運用ということに重点が置かれている。
あまりに流行に乗りすぎで恥ずかしかったのか、それとも「霞」に「雲(クラウド)」では縁起が悪いと思ったのか、とにかくバラバラに運用されている政府系システムを統一にしようということだ。
本資料に目を通すと、IT業界の動向から考えて、どんな組織も当然行っていくべき措置が書かれていて、特に画期的なところはないが、どうも肝心なことについては一切スルーしているようなのだ。その肝心なこととは次の3点である。
○e-Japan構想が立ち上がった頃、相次いでシステム開発されたもののさっぱり利用実績がない電子申請システムをどうするのか
○電子文書公開検索に関わるエンタープライズサーチは実施しないのか
○政府内の人員確保をどうするのか
大きなデータセンターを建設するのであるから、当然電子申請システムの利用促進も併せて考えていかねばならないはずだが、そのために必要なのはシステムの改良や啓蒙ではない。「個人認証デバイス」をいかにして配るかである。
指紋認証システムでもICカードでもとにかくログインしようとするユーザーが間違いなく本人であることを証明するためのデバイスは、自分で購入してパソコンにドライバを組み込んでセットアップしなければならないのだ。
電子申請で大きな恩恵を受けるはずのお年寄りへの配慮などは触れられていない。
続いて電子文書公開であるが、漠然と文書を各府省のホームページに載せて、「勝手に見てください」と言われても、不便なことこの上ない。
「この行政事務は、どの法令とどの各省運用通達があって、どのように運用しているのか。窓口はどこなのか」などを、はやりの用語で言えば「ググる」ことができなくては、行政の「見える化」は進まない。
こうした機能は、エンタープライズサーチと呼ばれており、すでに高機能な製品が登場している。高価ではあるが政府予算規模では、たいしたコストではないにもかかわらず、一切やる気はないようだ。
最後は、政府内の人員確保である。内部の組織事情に精通している一定職位以上の人材が多数求められるのだが、お役所ではこうしたプロジェクトを実施に移すとなると、「ただのパソコンマニア」が要員に抜擢されることになる。
お役所内におけるIT担当部署は、事実上のハキダメ人事になっていることが多く、建設的な仕事は望めそうにない。
かくして、立派なデータセンターができあがり、コンピュータメーカーは大売り出しで潤うだろうが、システムの実装に関わるべき、やる気のない政府担当者は、仕事を業者に丸投げすることになる。丸投げの仕事からよい成果は生まれないだろう。
政府系のITプロジェクトが「失敗」または「見るべき成果なし」であった歴史がまた繰り返されることになりそうだ。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)