writer : techinsight

【親方日の丸な人々】お役所のナワバリは結界に似たり

お役人の悪口を言うときに必ず出てくるのが「ナワバリ意識」という言葉である。
しかし、リアルのお役人に「ナワバリとは何ですか?」と聞いたら、「事務分掌や責任範囲のことですよ」という答えが返ってくる。もちろんそれは間違いではないが、さりとて真実でもない。今回は、お役人のナワバリについて紹介したい。

ナワバリには、垂直的ナワバリと水平的ナワバリがある。垂直的ナワバリとは、地方自治体に任せてあるはずの業務に関して、指導監督や報告義務などで国が手綱を握っていることを言う。

不祥事が起きたときに、都道府県に責任を押しつけることができるので、非常に便利である。

労働行政の報告義務が、都道府県労働局(自治体)と各労働基準監督署(国)に細かく別れていたり、国の管理する道路や河川の管理業務の一部または全部を都道府県に委任(機関委任事務という)していたりするのが例である。

そして、これらは厚生労働省や国土交通省のナワバリである。そしてこの省庁間のナワバリが水平的ナワバリであり、その中でも労働行政は厚労省内の「労働基準局」のナワバリであり、道路管理は国土交通省「道路局」のナワバリ、河川管理は国土交通省「河川局」のナワバリである。

もちろん、業務分掌なり責任分担は必要なので、組織が別れていること自体に何も問題はないのだが、このナワバリというのは自分たちの益になるネタがあるときには、率先して他のナワバリを浸食しに行くが、責任や義務を押しつけられるときには、断固としてナワバリを主張し、内部に不利益が入り込むのを防ぐ結界の役割を果たす。

縦割行政として批判される現象の多くは、内部に不利益が入り込むのを防ぐ結界を張り巡らしていることの結果である。

かつてBSE騒動のときに、農林水産省の担当官が「我々は食品安全を管轄する部署ではありません」と断言していたのが好例である。

逆に他のナワバリを侵しに行くときというのは、たいてい予算要求のネタに煮詰まって、よそのナワバリから一部をかすめ取ってくる必要があるときである。

たとえば、以前に紹介した国土交通省が旗を振っている「アイランドセラピー構想」は、離島へ行ってのんびりして心身共にリフレッシュという、一見ステキな構想であるが、ナワバリ元は国土交通省の離島振興課である。

セラピーと銘打つからには、厚生労働省の健康増進政策と連携しなければならない。勝手にやってしまったら、他人のナワバリを荒らすことになるので、慎重に慎重を重ねて根回しをして、提携事業として実施するべく予算を獲得するのである。

もちろん、国土交通省管轄の財団法人 日本離島センターを食わせるための政策である。

お役所にはこうしたナワバリが二重三重に張り巡らされている。そして結界で守られているのであるから、ナワバリの中はおおむね天国である。

役人天国とは、すなわち在職中はナワバリ天国、退職後は天下り天国とでも表現するのが妥当であろう。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)