writer : techinsight

【親方日の丸な人々】公務員の焼け太り・水太り(1)

民間企業にとって顧客からのクレームは新ビジネス立ち上げのための宝の山であると言われる。
商品をほめられても「ありがとうございます」くらいしか言えないが、けなされればバージョンアップした新製品を出せるからである。
お役所においても、これは同じであって、国民からのクレームや国家賠償訴訟は新規予算獲得のための宝の山なのである。

現在、水源地のダム事業と平野部のスーパー堤防(高規格堤防)が見直しの対象になっている。洪水を起こす現況である蛇行流路のショートカットも川底土砂の浚渫も行われており、少なくとも洪水防止の目的のためには、これらの事業は非現実的だからである。

しかし、これは今に始まったことではなく、すでに河川工事のネタは大局的には昭和時代におおむね尽きているのである。

そこで旧建設省は、「コンクリートが張り巡らされた堤防護岸が非人間的」「ホタルがいなくなった」という国民からの情緒的な批判をさっそく取り入れ、せっかくコンクリート整備した護岸の上を土で被覆する事業を始めた。今振り返ればエコロジーの嚆矢と言えるかもしれないが、これもクレームをもとに新規予算獲得に成功した例である。

かつて治水事業が未整備だった頃に起きた洪水被害については、国家賠償訴訟の対象になっていたものの、「予見不能な洪水被害については賠償の必要はない」というのが判例・通説だったのだが、平成に入って「すでに改修を終えた地区で発生した堤防決壊等は管理瑕疵に該当」というミソがついた。

難しい用語が並んだので、簡単に説明すれば「ここは安全ですよ宣言」をした後で洪水が起きたらお役所が悪いということである。それならば、どえらい堤防を作ってやろうじゃないかと言い出して建設が始まったのがスーパー堤防である。

100年に1回の洪水、200年に1回の洪水、500年に1回の洪水にも耐えられるものを作ろうというので、「ちょっと待った」がかかって現在に至る。

平野部で洪水防止対策が進めば、ますます上流部のダム建設の必然性が薄れる。以前にも触れたが、同じ治水系役人でもダム系役人と河川改修系役人は非常に仲が悪く、これでますます治水事業は迷走し始める

リスクマネジメントの観点からすれば、どうしても避け得ないリスクに対する措置は、リスク移転として資金的手当をするのが一般的だ。

簡単に言えば、治水予算の数割を基金として積み立てて置いて、500年に1回の水害が起きたら資金提供をすればよい。その間、安全な方法で資金運用していたほうがはるかに国益になる。

人命だけは絶対に守る必要があるから、確実な避難誘導計画と水が引くまでの生活保障準備を行うべきだろう。

しかし、こうした策は絶対に採用されない。理由は河川工事で生計を立てている土建業界が干上がるからであり、治水担当役人の利権の喪失につながるからである。

利権と称されるもののすべてが悪なのではない。利権の中でうまく資金を環流させながら、どう国益を増進するかを考えればよいのである。

かつて、洪水が起きるとマスコミはこぞって「これは天災ではない、人災だ!」と国の管理瑕疵を強調した。その批判は見事に公務員を焼け太りならぬ「水太り」させてきたと言えるだろう。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)