writer : techinsight

【親方日の丸な人々】「やむを得ない場合を除き」「当分の間」「目指す」

事務系のお役人の必須スキルは文章力である。とはいっても正しい日本語を正しく使う能力ではなく、法令の規程を骨抜きにするためのフレーズ挿入のセンスが問われるのである。

この連載でも何度か紹介したが、お役所の文章を解読するための参考になればと思い、今回はよく使われるフレーズ「やむを得ない場合を除き」「当分の間」「目指す」の3つの用例を紹介する。

まず「目指す」の意味を紹介しよう。これは「我々は何もしたくありません」ということを強調するために使われる言葉だ。

たとえば、一般用語でも「富士山単独登頂を計画する」と書けば、少なくとも大筋の計画ぐらいは立案することを意味するが、「富士山単独登頂を目指す」と書けば、富士山のほうを向いて拝礼して「いつか登ってみたいものだなぁ」と考えるだけでも「目指す」に該当する。

お役所用語でも、たとえば「障がい者共生型社会の実現を図る」という当初文案が「障がい者共生型社会の実現を目指す」に変えられてしまうことがある。

これは「計画すら立てるかどうかわかりませんが、少なくとも否定はしません」という程度の極めて後ろ向きな文章であるが、お役所外の人にはなかなか判断ができない。

続いて、一般的な禁止規定の例外を示すときに使う「やむを得ない場合を除き」である。
「○○については、やむを得ない場合を除き、禁止する」という具合に使う。

しかし、この「やむを得ない場合」が具体的にどういう場合なのかは、担当者または責任者の判断に任される。ただし、実際にはいかにして「やむを得ない場合」を増やすかに腐心することになる。

下手をすれば、本当に禁止した例がなくなってしまうことになるので、歯止めをかけるために、運用規程が策定されることも多い。

「○○に定める【やむを得ない場合】とは次の各号の一に該当する場合をいう。(1)特定の者に著しい不利益を与える場合・・・・・」という具合にガイドラインを策定しておくのである。

しかし、この場合でも列挙された事項の最後に「(9)その他【真にやむを得ない場合】」という規程が置かれ、きわどい判断に関しては責任者の判断に委ねられる。結局、抜け穴はあって、そこからなし崩し的に崩壊するのが、お役所名物の「禁止規定」である。

最後は、有名な「当分の間」である。「○○については原則として禁止する。ただし、当分の間、次の各号の一に該当する場合には禁止の対象とはしない」として、やはり例外規定をたくさん作る。

「当分の間」の意味は、「明日撤回するかもしれないし、永久に撤回しないかもしれない」ということだ。

結局、この3つの「Magic words」が使われた公文書は、立派なことを書いているようで、実は何もする気がないということを意味する文章なのである。

よって、この連載「親方日の丸な人々」についても、「当分の間、やむを得ない場合を除き、お役人叩きを目指す」ことにしていきたいと考えている。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)