有給休暇取得は、労働基準法で定められた制度として労働者が有する権利であり、本来その取得に際しては、理由の申告すら必要ない。
「休みたいから休みます」ただそれだけで良いはずである。しかし、実際には何か理由を付けなければ休みにくい雰囲気はどんな職場にも存在し、公務員の場合も同様である。
それは成文化されない日本的なモラルの発露が試される場である。そのモラルが民間と公務員ではあまりにもかけ離れているので、今回はそれを紹介する。
一般的に、有給休暇取得の言い訳に使われるのは仮病である。風邪、腹痛、頭痛、ジンマシンなど体調不良の理由は何でもよい。たとえ頭痛や腹痛の原因が二日酔いであってもかまわないのだが、官公労の指導方針としては、体調が悪いときに取得する休暇は別枠の「病気休暇」であるべきだとしている。
しかし、「風邪程度で有給休暇を取るヤツはサボっているのと同じ」と考える同僚もいるので、咳ひとつしていないのに有給ではなく病気休暇で休む職員と、肺炎を起こしかけていても出勤してきて、勤務熱心=忙しい=自分は有能であることをアピールする職員の2タイプに分かれる傾向がある。
また、とある職場では12月24日つまり恋人達の聖夜に、女子職員の大半が有給休暇(半休)を取って帰宅するという現象が起きた。この日に女子職員ばかりが一斉に休みを取る理由は、ただひとつ「見栄」である。実は何も予定がないのに休みを取って、家で寝ていた女子職員も多いであろう。
女子職員の場合は、有給休暇、病気休暇、生理休暇を自在に使い分けて休む傾向があるが、職場ではおおむね黙認の方向である。
特に幼児を持つ母親は、子供の通院付き添いのために、有給休暇を使い果たしてしまうことが多く、自分が休みたいときには病気休暇か生理休暇を使うしかない。とはいえ、これは民間ならば、有給休暇日数を超えた休みは欠勤扱いになるのが普通であるから、やはり公務員は恵まれているというべきであろう。
さらに、昨今はワークライフバランスが国策のひとつとして提唱され、仕事も家庭も大事にするべく、有給休暇の計画的取得が推奨されている。
しかし、昔も今も家庭では居場所のない「一家の大黒柱」が、役所を自分の「居場所」にしている例は多く、彼らに有給休暇取得を無理強いすると、路頭に迷ってしまうのである。
仕事はしたくないが、家にも帰りたくないという彼らに休暇を取らせるのは至難の業だ。なにしろ自分の存在理由を見つけるためにわざわざ無駄な仕事を作ってまで深夜まで残業するのが好きな人々なのだ。
かくして、休んだ方が良いのか、休まない方が良いのかは、非常に悩むところなのだが、とある現役公務員にインタビューしたところによれば、「有給休暇は年間10日程度にとどめておくのが暗黙の了解になっている」とのことであった。もちろん役所や部署によって差はあることは言うまでもない。
公務員は良くも悪くも民間労働者の手本になるべき存在である。彼らがワークライフバランスをいかに上手に図って、なおかつ近年推進されている男性の育児休暇を積極的に取っているか、国民は厳しく注視しているであろう。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)