writer : techinsight

【親方日の丸な人々】運動会扱いのスパコン哀歌

行政刷新会議による事業仕分けにおいて、ここ数日話題をさらっているのが、世界最高速スパコンの予算凍結である。1時間足らずの議論でこの問題を吟味できたのかどうかは疑問であるが、「世界第二位ではダメなのか」という質問は、実に味わい深く単純にして含蓄のある問題である。今回は、世界最高速スパコンについて親方日の丸視点で考察してみたい。

本連載で、今年2009年の初頭に紹介した記事をここで再掲してみたい。
日本のコンピュータープロジェクトには、膨大な国費を投入して何も成果が得られなかったという一種の前科がある。

まずは80年代前半に、コンピュータに人間を超える推論を行わせようという「第5世代コンピュータ」というプロジェクトがあった。570億円を投じた研究であったが、その成果は一応果たしたとはしているが、実際に応用する場所がなかったので、技術のままで終わった。しかもその推論能力はやはり人間には及ばなかったのである。

続いて、80年代後半に立ち上げられた○○○プロジェクト(禁忌とされているため伏せ字にする)は、250億円を投じて、全く何の成果も生み出さなかった。

その他、90年代に始まった住基ネット、電子申請、e-Japan戦略、インパクなど、どれも一定の成果はあったとしているのだが、民生レベルで実用化に至ったものなどほとんどない。

そして、今回、世界最高速の国産スパコン要求であるが、世界一ということにどういう意味があるのかがほとんど知られていないのが最大の問題である。速度を競うだけなら運動会と変わらないと思われても仕方がない。

「この研究を行うのに、○○ペタフロップス(計算能力の単位)の能力を有するスパコンが必要であり、しかもそれは国産でなければならない」という主張がきちんと伝わっていないのである。

スパコンを開発するために研究ネタを探してきたのか、研究をするために国産スパコンが必要なのか、果たしてどっちなのか。外国製のスパコンを買ってきて研究すればよいのではないかという疑問が出てくるのは当然である。

実はスパコンのメーカーは、日本とアメリカに集中している。ヨーロッパ諸国などは独自コンピュータの開発など全く放棄して、日本製かアメリカ製のコンピュータを輸入してきて使っている。

しかし、日本は技術立国のメンツにかけても、アメリカの後塵を拝するわけにはいかないのである。そしてそのコンピュータで動作させるべきOS(基本ソフト)やミドルウェア(準基本ソフト)は、ほとんどが外国産である。

日本のスパコンで日本製のOSとアプリケーションを動作させて世界に売り込むのが、日本の悲願なのであるが、「なぜ世界第二位ではダメなのか」という素朴な疑問の前にはなすすべもなかったという状況だ。

これまでは担当省庁と査定当局である財務省との阿吽の呼吸で、筋を通しながら要求してきたやり方が全く通用しなかった、今回の事業仕分けであるが、拘束力はないので、今後本格化する事務レベルでの予算要求で巻き返しを図っていくことであろう。

予算要求とはそうしたものであって、全方位納得の予算査定などはあり得ず、削減された事業をかかえる省庁は当然怨嗟の声を上げるわけだが、最終的に政府案を策定する財務省がどういう判断を下すかが注目されよう。

なお、国民が事業仕分けに期待しているのは、ムダな事業の削減というよりも、国→公益法人(お役人の天下り先である)→民間企業(お役人の第二次天下り先である)と流れる予算に足止めをかけ、真に国民のためになる事業を推進することである。

今年が初の試みになる事業仕分けが予算査定にどのように反映されてくるか、しばらくの間、注視していく必要があるだろう。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)