「アメリカ産牛肉が開放されたとしても、食べなければいい」「よく火を通せば大丈夫」。これが多くの台湾人のアメリカ産牛肉開放に対する考え方である。しかし、問題はそれほど簡単なことでもなさそうだ。
高雄長庚病院の栄誉副院長である陳順勝氏は、台湾の商業雑誌『商業周刊』の中で、「狂牛病の原因である異常プリオンは、土に埋まっても3年は生きることができ、摂氏1000度の高温で30分間焼き続けて、ようやく殺すことができる。」と語っている。
陳氏によれば、ヒトが狂牛病に感染した牛肉を食べると直接感染するという。また、異常プリオンが人の便を通して土に混じれば、野菜や米などの農作物も汚染されることになるという。
そして、ヒトや牛、豚、鶏などの家畜が、異常プリオンを含んだ農作物を食べることによって、また体内に異常プリオンが入ってしまうのである。
更には、異常プリオンを含んだ残飯が肥料となり、別の土壌や農作物を汚染する可能性も出てくる。
直接、感染している牛の肉や内蔵を食べるだけでなく、間接的に感染したその他の動物や農作物を食べても、異常プリオンは体内に入ってくるのだ。
これはもう、アメリカ産牛肉を食べなければいい、よく火を通せば大丈夫、などと言ってはいられない。ベジタリアンでさえ、感染の可能性があるのだ。
しかし、衛生署は最新研究報告の中で、「食用の骨付き牛肉が牛海綿状脳症を引き起こす確率は一千億分の2.72。内蔵部分でも百億分の1.5の確率しかない」としている。
これを受けて馬英九総統は、「ビンランやタバコで癌になる確率よりも低い」「百億分の一のリスクは通常リスクとは考えない」とコメントした。
感染する確率が低ければ、安心してもよいのだろうか。
感染すれば7年もの潜伏期間があるという異常プリオン。治療法も見つかっていない。
これはリスク管理の問題である。
ビンランやタバコは自己責任だ。しかし、アメリカ産牛肉が開放され、異常プリオンが台湾の食物連鎖の中に組み込まれてしまったら。
アメリカ産牛肉開放への不安は広がる一方である。
政府は、意味のない確率の比較などではなく、大きなリスクになり得る問題について、国民が納得できる対策を示すべきではなかろうか。
(TechinsightJapan編集部 片倉愛)