今年のミス・ユニバースに出場する日本代表の衣装については、その過激なスタイルから、多くの批判の声が上がった。そして、実はタイにおいても、今年のタイ代表の衣装を批判する声が上がっている。ただし、タイにおける批判の内容は、日本とは少し様子が異なり、民族の根深い問題に基づいているようだ。
今年のミス・ユニバースでのタイ代表の衣装については、各国から多くの高評価を得ている。しかし、この衣装に反発している人々がいる。それは、タイ国境付近に住む山地民の中のひとつの民族、カレン族である。
というのも、カレン族の中には幼女の頃から首に輪をかけ続けて首を長くする、いわゆる“首長族”といわれる集団がいるのであるが、今年のミスユニバースのタイ代表の衣装は、この首長族をモチーフにしていると考えられるからである。
では、なぜ首長族をモチーフにすることが、彼らから反発を受ける原因となるのか。
それは、カレン族をはじめとしたタイに住む山地民は、タイの国籍を有することを認められていないからである。よって、山地民の言い分としては、「タイ国民と認められていない我々民族のスタイルを、タイ代表の衣装のモチーフに用いるのはおかしいのではないか」となるのである。
タイに住む山地民の政治的地位は、タイにおいて非常に低い。それは、山地民の大半が、タイが近代国家を建設し始める19世紀後半以降に、中国雲南省付近から正規の手続きを経ずに移住してきた者たちだからである。
彼らがより良い耕作地を求めて、現在のタイの国境付近に定住し始めた頃、タイーラオス、タイーミャンマーの国境線が明確になった。その国境線に従って、タイ政府は山地民を不法入国者として位置づけたのである。
そのため、その後の彼らが歩んできた歴史は決して明るくない。“不法居留民”というレッテルのもと、彼らはタイの国籍を有すことができず、そのため、土地をもつ権利や、森林を自由に使用する権利なども与えられてこなかったのである。
このような彼らの歴史的経緯や現在おかれている立場の問題を背景として、カレン族から、今回の衣装に対する反発の声が持ち上がったのである。
今年のミス・ユニバースに出場するタイ代表の衣装の問題。それが示すのは、近代国家建設の時につくってしまった“不法居留民”と、その後の彼らに対する政府の国籍問題といえよう。「近代」が作り出した矛盾が浮き彫りになっているのである。
(TechinsightJapan編集部 若曽根了太)