今回は、お役所と「お茶くみ」の悩ましい関係について取り上げる。民間企業を訪問すれば普通に出されるお茶も、お役所においてはさまざまな悩みのタネなのである。
まず、お役所の予算でお茶を買うことができないのである。お茶は嗜好品であって、無くても業務に支障はないので、買うわけにはいかないのだ。職員が飲むお茶は当然自腹であり、来客用のお茶も接遇費として計上されている微々たる予算の範囲でしか買えない。
来客時の接遇としての「お茶」については、基本的にお役所幹部への訪問客に限ってしか出されない。これもかなり細かな取り扱い基準がある。
まず、お茶を出してはいけない相手というものがある。一言でいえばクレーマーである。
何かにつけて役所に無理難題をふっかけてくる人々の中には、暴力団かそれに近い筋の人がいるので、暴力団対策当局の指導によりお茶を出してはいけないのである。
お茶を出すということは、相手の言い分に対する同意の一環と見なされるからである。
反対に必ずお茶が出されるばかりか、「コーヒーと紅茶と煎茶のどれになさいますか」と女性秘書から尋ねられるのは、お役所OBである。お役所にとっては市民の代表である政治家と並んで、OBは大切なお客だ。
そして、クレームを付けにいこうが、有益な提言をしにいこうが、お茶を出されないのは一般市民である。お役所にとって一般市民は「お客様」ではない。「用事があって役所に来ている人」でしかないので、接遇対象にはならないのである。
ただし、お役所主催のイベントにやってきた一般市民にはお茶が出されるほか、例外はいくつかある。全ての役所を取材したわけではないが、セルフサービスの麦茶を出している役所も一応あるようだ。
「誰が」お茶を出すかという問題も悩ましい。一昔前なら、女性職員が率先してお茶を出したものだが、今、そのようなことをさせると、国交労の婦人部や市民オンブズマンの怖い女性が黙っていない。
それでは男性がお茶を出せば良いかといえば、理屈としては、男性に限定することもジェンダーフリー的におかしいので、結局、お茶くみ当番をローテーションで決めたり、お茶くみ専用のアルバイトを雇ったり、いろいろ苦労している。
官民問わず、エグゼクティブな人々は訪問先のお茶くみ接遇を見て、その会社の品格を判断すると言われる。
納税者である市民の訪問に当たっては、さわやか行政の一環として「おいしい麦茶をどうぞ」というセルフサービスのお茶くらいは提供してもよいのではないだろうか。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)