(C) Niko Tavernise for all Wrestler Photos
悔しくも、記者も好きだった人気プロレスラーの早すぎる死が報道された翌日、この映画を見ることになった。「ミッキー・ロークの復活劇」という部分ばかりが取り沙汰される『レスラー』だが、この映画で描かれる1人のプロレスラーの生き様こそが、多くのレスラーの生き方である。家族を省みず、体を酷使し、業界全体の落ち込みによりファイトマネーが安かろうと何だろうと戦い続ける理由、「それは何」なのか?
寝食も忘れて取り組める「心から自分の好きなもの」にめぐり合ってない人や、「家族や恋人を守ることこそが“順調な生活”。」と思える人には、ボロボロになって戦う孤独なレスラー、ランディになにひとつ同情することができないであろう。しかし“一度きりの人生”を、何か一つの事で(この場合、プロレス。)純粋にランディのごとし燃やし尽くす事のできる人間は少ない。
(C) Niko Tavernise for all Wrestler Photos
スーパーで働きながら、土日はプロレスの興行を細々続けている主人公ランディ(ミッキー・ローク)。ホームセンターで様々な小道具(バシンと頭をたたくと凹むお盆とか、虫除けスプレーとか)を買い揃えてのぞんだ試合で、戦いがエスカレートすると、体にホチキスを撃ちつけ、カミソリを忍ばせてワザと流血させてみたりする。それもこれも、みんなお客に喜んでもらいたい為だ。夢中になって観戦してくれるプロレスファン。彼らはわざわざ地方の興行に来てくれているぐらいだから本当にレスラー・ランディのファンで、スゴイ戦いを期待している。ランディはそれに応えるのが何よりも幸せだ。プロレスはランディにとって家族、恋人、また自分以上に大切なのである。
先に亡くなった人気レスラーも、プロレス業界全体の人気が落ち込みにより、金策に奔走していたという。テレビ中継の契約も終了し、経費がかかる地方巡業の客の入りも自分が出なければ悪くなるかもしれない。たとえハードなスケジュールで疲労が蓄積してようとも「自分の試合を見に来てくれるファンの期待に応えよう。」という思いは強かったに違いない。彼の体のダメージは戦う前から計り知れなかった。
プロレスリングは、非常に浮き沈みの激しいエンターテイメント・スポーツであり、しかしそこには、“自身の生死よりも大切”な何かがある。熱いファン声援に応え、肉体の痛みに耐えて戦いつづける「強い魅力」がきっとあるのであろう。
迫力あるファイトシーンも見どころだが、レスラーであるランディは、人を惹きつける魅力ある男。ミッキー・ロークの醸し出すそのキュートさは、昔と変わらない。ランディにやさしく接し、愛情を見出すストリッパーのキャシディを演じたマリサ・トメイも好演。彼女は『アルフィー』(ジュード・ロウ主演)でも、キュートなシングルマザーを演じていたが、話題になったバツグンのスタイルよりも、憂いのある黒い瞳が魅力的。目で演技ができる数少ない女優である。
(TechinsightJapan編集部 空野ひこうき)