writer : techinsight

【映画行こうよ!】『レスラー』を地でいく、ミッキ・ロークの転落・復活劇。

映画『レスラー』が大好評のミッキー・ローク。この映画の主人公ランディを演じる彼の変わり果てた姿に『ナインハーフ』や『エンゼル・ハート』の頃の彼を知っている世代の人は、「まるで(痩せる前の)大仁田厚?」と勘違いさせられる。映画評論家にさんざん酷評された『蘭の女』を美の頂点とする彼も、その後エロ路線を封印し、山アリ谷アリでいつのまにか「普通の男」に変わっていった。20年前のナンバーワン・セックス・シンボルのミッキー、その実像に迫る。

さんざんに酷評され、映画興行的にもビミョーだった『蘭の女』(1990年)。この映画、記者は嫌いじゃない。見たのはもうずっと前の若い頃で、ストーリーもなにか忘れてしまったが、ミッキーに恋するやさしい女性・エミリーを演じたキャリー・オーティス(のちにミッキーと結婚)の緑色の瞳がとても美しく、ハダカで抱き合う白人二人(ミッキーとキャリー)の白い身体が「白い蘭の花」に見えるという、すごく凝った演出の映画だった。当時のミッキー・ロークの色っぽさといったらもう芸術の域に達していて、その「暴力的」な持ち味でさえもセクシーと賞されていた。

その、「暴力的な色気」が彼の最大の魅力だった事は確かなのだが、そのイメージと不器用な生き方が、ミッキー・ロークのその後の役者人生を大きく狂わせる。まず、数々の過激な言動で著名な監督からのオファーが来なくなってしまう。ロバート・デニーロを起用してのハードな作品で数々ヒット映画を制作していたマーティン・スコセッシ監督も、ミッキーの起用をためらった。日本映画でいうと、トラブルメーカーの勝新太郎を起用したがらなかった黒澤明監督みたいな状況に。多くの映画製作者がミッキーの俳優としての魅力よりも、順調に撮影が進むキャスト選びを尊重したのだった。

『逃亡者』、『ハーレーダビッドソンマルボロマン』とB級な二作品の後は、これと言ったいい役が来ず、そんないらだちからかせっかく結婚したキャリーに暴力をふるって裁判沙汰を起こし、さらに悪い状態に。なぜか急にボクサーになる。今から思えばバブル絶頂の1992年の来日試合もタダの金集めだったのかもしれない。ここでミッキーはハリウッド仕込の派手な(ライオンキングみたいな)ボクサーパンツと強烈な「猫パンチ」を日本人の目に焼き付け、大金を持って帰国した。その後、さらに悪い事にミッキーは、J.T.リロイという、「自称不幸作家」の偽セレブに乗せられ、セレブ界でも赤ッ恥をかかされてしまう。度重なるボクシングのパンチと整形手術のおかげで顔は崩れ、窮地のどん底に・・・・。

それからしばらくして、以前のような目立つ役でなく出番の少ない脇役でボツボツ頭角を表わし出したミッキー。『レインメーカー』の後、ヴィンセント・ギャロのヒット作『バッファロー’66』で新たな演技スタイルを確立。干され、そっぽを向かれ少々大人になったミッキーは、その後使われやすくなり『ドミノ 』(2005)と『シン・シティ』(2005)で“カッコイイ激悪オヤジ”(ちょいワルならぬ)を演じて再びスターダムに返り咲く。50代に入り、母親とも和解したミッキー。若い時と違って、「引く演技」が上手くなった彼は、“無鉄砲であるが心は無垢な男”を演じた『レスラー』で、数々の賞を受賞。近年のインタビューでは「いろんな人に助けられ、内面的にも見事に立ち直った。」といった内容の言葉を語る。俳優としての自身に満ちている。

すごい体型になってしまったミッキーが演じる『レスラー』のランディだが、愉快に惣菜売場で働くシーンや、一旦和解した娘とデートするシーンで、時折セクシーな昔のミッキーがチラリと顔を出す。それを見ると記者はうれしくなるのだ。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)