2009「重力ピエロ」製作委員会
この春公開された『フィッシュストーリー』 、次期公開される『ラッシュライフ』など「映像化不可能」と言われながらも、次々作品が映画化されている1971年生まれの人気作家・伊坂幸太郎。いまのところその真打ともいえるベストセラー小説『重力ピエロ』の映画が公開3週間目に入っても客足が絶えないヒットを記録している。一切原作小説を読まない記者が映画を見るだけで、どこまで『重力ピエロ』を理解できるだろうか。
原作の舞台そのものが宮城県仙台市でもあり、作者が東北大学卒で現在も仙台市に在住という事から、宮城県と仙台市が撮影に協力している。主人公の兄が通う研究室のシーンに大学が出てきたり、回想シーンに仙台・青葉まつりが出てきたり、よく見ると所々に観光地が満載。ロケ地マップもある。まさに“伊坂幸太郎、母校に帰る”(でも出身は千葉県)といった感じだが、実際の仙台は映画のストーリーに出てくるよりも明るい町だ。
美形だがどこか危なっかしい弟・春(岡田将生)は、自由奔放、頭が良くて芸術的センスにも優れている。そんな春をずっと見守り続けていた兄・泉水(加瀬亮)は大学院で遺伝子学を研究している。二人の母・梨江子(鈴木京香)は既に亡くなり、母の命日には父・正志(小日向文世)が料理をつくり三人で食卓を囲むのが習慣の仲の良い家族だ。
「春が二階から落ちてきた。」まぶしい弟を見上げる兄・泉水。「間宮兄弟」を見た時にも感じた“兄弟BL的”なニオイが漂う。美しい岡田くんは笑顔が一瞬、萩原流行にそっくりで、そこはちょっと残念。肩幅が広くガタイの良い弟に比べ、加瀬亮の演じる兄・泉水の激ヤセぶりが目を惹く。これも圧倒的な“存在感の差”を見せる為の役づくりと納得。『インスタント沼』ではやさしいパンク青年だった加瀬亮はメガネひとつで「神経質な理系のオタク」に早変わり。さすが、バラバラでも全部が「当たり役」という、近年稀に見る器用な俳優・加瀬亮。しかも『重力ピエロ』の泉水役は、他の俳優では絶対に出せない独特な緊張感を出している。
心配していたとおり、遺伝子がどうとかいう「難しい謎解き部分」はさっぱり理解できなかったが、それゆえ主人公たちの苦しみや、ストーリーに集中して見ることができた。泉水が遺伝子の配列を書いて並べる緑色のテープや、らせん階段の図によって観客は視覚的に「遺伝子」というキーワードが植えつけられ、落書きアートやそれを撮影したポラロイド写真、春の部屋など、常に視覚に訴える魅力的な絵が、暗いストーリーを少しだけ色鮮やかに見せた。サクラの花びらの舞う中、教室から飛び降りる春も美しく印象的だ。
ストーリーについてはあえてここで語らないが、苦難が襲いかかっても妻と息子たちを愛し守ろうとする父を演じた小日向文世がいい。今回記者は岡田と加瀬の若手には感じなかった魅力を、小日向に強く感じてしまった。むしろ髪の毛がうすい方が好きだ。
春の少年時代を演じる北村匠海くんの表情の作り方が大人の春以上に繊細。兄役の大野日南太くんも加瀬亮そっくりでやさしい。「○○って何?」って聞くシーンは胸が痛くなった。
そして忘れてならないのが、いつもと違う吉高由里子と憎たらしい演技を見せる渡部篤郎。小日向と渡部の役どころがいつもと反対なのが面白い。
『重力ピエロ』は現在公開中。監督 森淳一。出演 加瀬亮、岡田将生、小日向文世ほか。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)