俳優の杉浦直樹さんが今月21日、肺腺がんのため79歳で亡くなった。彼が役者として真摯な態度で芝居に取り組む姿に、多くの後輩たちが憧れ尊敬の念を抱いていた。その一人である俳優の坂上忍が、「素敵な先輩だった。」と杉浦さんのことをブログに書いている。
9月23日付の坂上忍のブログ『綺麗好きでなにが悪い!』によると彼が30代半ばの頃、NHKのあるドラマで杉浦さんと共演した時の出来事だという。坂上の役はチョイ役でそのドラマの監督が昔からの知り合いでなかったら、引き受けてはいなかったそうだ。(この傲慢な考え方は、後に猛反省している。)
どうせ“お付き合い出演”と心の底では思っていたのかもしれない―と、当時を振り返る坂上。その場面の台本は、ベテラン女優に話しかける台詞であった。家を訪ね彼女の夫役だった杉浦さんの前を横切って、彼女に向かって話し始めた坂上に対し杉浦さんはすかさず注意したのだという。
(台本には書かれていないが)他人の家を訪ねてきて、“目の前にいる家主(杉浦さん)に対して頭も下げないで通り過ぎるのは、おかしいのではないか”と、ハッキリ言葉にして言われたのだ。
坂上は、この言葉に無性に自分が情けなくなったという。自分の役者としてのキャリアを考えれば台本に書かれていない立ち振る舞いも、演技ができて当然である。杉浦さんは坂上の“お付き合い出演”だから―という腐った臭いを嗅ぎ取ったのではないかと、ブログで綴っている。
だが坂上の長い役者人生の中で、杉浦さんのようにキチンと苦言を呈してくれる先輩はほとんどいなかったそうだ。見て見ぬ振りをせずに「おかしいものは、おかしい。」と言ってくれる先輩は、今となっては自分の財産であると記している。相手のことを本当に思い呈した苦言は若いときは相手の心に届かなくても、必ず理解してくれる時が来る。自分も後輩には「先輩として言うべきことは、キチンと言う。」を心がけたいと、坂上は思っているようだ。
哀愁漂う役からコミカルな役まで、幅広い演技で私たちを魅了した杉浦さん。報道によると最期のお別れの言葉は、「私の人生、メデタシ、メデタシ」だったそうである。
(TechinsightJapan編集部 みやび)