2007年初夏に上演され、その圧倒的なパワフルさとシェイクスピア演劇独特のセリフを重視した英国RSC(ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー)、ジョン・ケアードによる演出が話題となった『夏の夜の夢』。
この作品が満を持して東京の新国立劇場にて再演されている。「夢か現実か、一夜の恋の祝祭劇」と伝えられるとおり、人間とユニークな妖精たちが森で巻き起こす恋の騒動を描いたこの作品は、まさに夏の夜にふさわしいロマンチックな余韻が味わえる。
東京オペラシティに隣接する新国立劇場(京王線初台駅)では国際的な舞台芸術作品をたくさん上演しているが、『夏の夜の夢』同様、今後同劇場で上演されるウィリアム・シェイクスピアの代表作『ヘンリー六世』の上演を記念して、専門家を招き「シェイクスピア大学校」というレクチャーを予定している。
今回幸運にも、『夏の夜の夢』上演後に行われた演出家・ジョン・ケアード氏による特別講座にて、シェイクスピア作品の楽しみ方、役者たちの演技とセリフのあり方、そしてシェイクスピアを通してのお芝居や小説など「芸術への触れ方」を学ぶ事ができた。
シェイクスピアのお芝居は、本来ならたった3言で通じる内容でも、とても長い叙情的なセリフで語り、それがぎっしりと積み重なって物語が出来ている。役者がゆっくりと感情を込めてセリフを語ると『夏の夜の夢』の上演時間はゆうに6時間を越えてしまうので、役者たちのセリフは少々早口だが、観客は長いセリフ聞くことで実に様々な想像力をふくらませて、ストーリーを理解する事が出来る。こうケアード氏は語る。彼はまた、シェイクスピアの劇における男女は平等に描かれ、『夏の夜の夢』は恋する女性たちの「自由な意思」が見て取れるともいう。
大好きなライサンダーと妖精の住む森へ駆け落ちするハーミア、彼女を追いかけるディミートリアスに片想いするヘレナ。この女性2人は実にハッキリとした性格。この2人は妖精パックの「惚れ薬の花」を使ったいたずらによって、“とんでもない”騒動に巻き込まれる。さらに、妖精女王はロバの頭をした職人ボトムに恋してしまい、不思議な一夜を過ごすことに・・・・。
アテネの公爵とアマゾンの女王(人間)、妖精の王と王女(妖精)を2役をこなす村井国夫と麻実れい。シェイクスピアの本流である英国のRSC(ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー)名誉アソシエート・ディレクターのジョン・ケアード氏太鼓判のハマリ役である。
TVでもおなじみダンディな村井はシェイクスピア以外にも様々な外国の舞台作品に出演している演劇界の重鎮。威厳のある公爵とキュートな妖精の王を見事に演じ分けている。麻実の女王はどちらも上品で美しい。
縦横無尽に舞台を駆け巡る“妖精パック”を演じるのは、つかこうへい劇団出身の奇才・チョンソンハ。その他、若手、熟練、見ごたえあるキャストが揃った。
そしてなんといっても『夏の夜の夢』の舞台で一番見る人に楽しんでもらいたいのは物語全編にちりばめられた素晴らしい「シェイクスピアのセリフ」である。近年、映像化や簡略化により、ストーリーのみを追ったシェイクスピア劇も多くつくられているが、やはり原文に近いシェイクスピアの長セリフで語られる『夏の夜の夢』。ぜひご堪能をオススメする。
『夏の夜の夢』は新国立劇場にて14日まで。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)