日本では自販機で売られている缶入り紅茶飲料は珍しくないが、イギリスでは缶の紅茶というものはこれまで存在していない。というのもイギリス人にとって、ビクトリア時代から紅茶とリラックスした時間は切っても切り離せないものであったため、「手軽に飲む」という概念がこの国にはなかったのだ。ところが最近、そんなイギリスに紅茶革命が起こっているという。
日本人の観光客にも馴染み深いイギリスのアフタヌーンティーは今でこそ観光客メインの催しとなっているが、その昔は貴族のティータイムのひとときには欠かせないものであった。熱いお湯をティーポットに注いでその香りと旨味がしっかり抽出されるまでの間、貴族たちはビスケットやケーキをつまみながらお喋りに興じる。紅茶が煮出されるまでの「待つ」時間もイギリス人にとっては貴重なものだったのだ。
ところが忙しい現代人が増え、イギリスではリーフティーよりも手軽にすぐ飲めるティーバッグを重宝し、スーパーに何種類ものティーバッグが並ぶようになった。紅茶を飲むという伝統を重んじる文化は残っているものの、多忙な人々には“時短”という合理さに叶わないといったところだろうか。
それでも紅茶を愛する英国民は、たとえティーバッグであっても紅茶を飲む時間を尊重してきた。何か問題が発生した時、またパートナーや家族と喧嘩した時など「まぁ紅茶でも飲んで一息つこう」というケースが多い。言い換えれば、紅茶を飲まないことには落ち着かない。そしてその「紅茶の時間」のなかには、ティーバッグをいれたマグカップに熱いお湯を注ぎ、スプーンでグイグイと押して煮出す時間も含まれる。
ところが、そんな英国民の概念を覆すような紅茶がこのほど発売になったと英紙『Metro』が報じた。缶は缶でもスプレー缶に入った紅茶には「もうティーバッグは不要」と書かれてある。
この斬新なスプレー紅茶はYumChaカンパニーから発売されており、発明したのはガイ・ウッドウォール氏という人物だ。彼は「通常、ティーバッグだと紅茶を煮出すのに約13秒かかります。これがあればそんな時間もかからず、熱くて美味しい紅茶を手早く飲むことができるのです」と話す。
「手っ取り早く美味しい紅茶を飲める」というのが最大のセールスポイントだが、店頭でこのスプレー紅茶を見かけた人は「なんだこれは!?」と驚きのツイートをしている。ツイッター上によると、一部のコンビニで販売されており価格は3.99ポンド(約540円)、ジャスミンやアールグレーになると4.99ポンド(約680円)とのことだ。
20杯分の紅茶ができるというこのスプレー缶は、1杯分に換算すると確かに廉価ではある。ウッドウォール氏は「ティーバッグというゴミの無駄も防ぐことができる」とエコな点も強調しているようだが、たった「13秒」というティーバッグの煮出し時間までもイギリス人が長いと感じてしまうようならば、それはそれで問題だ。果たして、この斬新な紅茶革命はイギリスの伝統的紅茶文化にどのような変化をもたらすのだろうか。
出典:http://metro.co.uk
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)