少し前に、世界保健機関(WHO)が“赤身の肉と加工肉の食べ過ぎで大腸ガン発症の危険性”を警告して話題になっていた。そして肉食による発ガンの危険を特に気を付けるべきは、実は野菜を非常に多く食べる先祖を持っていた人々であることもわかってきたという。日本人もまさにその典型であろうと注目を集めている。
野菜や穀物が中心の食生活を送って来た先祖をもつ人々が、肉を多く摂ると健康上どのような影響が出るのか。そんな研究を行ったのは米コーネル大学で人間生態学・栄養学の研究を続けているトム・ブレンナ、クマール・コタパリ両博士。長い歴史において祖先が野菜中心の食生活にあったインド・マハーラーシュトラ州のプネー県民と、元から肉食に親しんできた米カンザス州の人々を比較することにより行われた。
キーとなった遺伝子の突然変異は、不飽和脂肪酸の代謝に重要となる遺伝子FADS1およびFADS2から発見された「rs66698963」。異なる民族グループのゲノム配列決定を目標に2008年からスタートした国際的研究事業、『1000人ゲノムプロジェクト』のデータを基にしたという。その結果、研究チームは「“先祖は菜食主義者であったが自分は肉食”こうした人々の遺伝子が突然変異を起こしてガンや心臓病を発症する確率は、そうでない人よりも高い」との論文を分子生物学の『Molecular Biology and Evolution』誌に発表した。
これに関連して、ヒトの体におけるEPA(エイコサペンタエン酸)の効果が広く知られるようになったきっかけでもある、グリーンランドの先住民族「イヌイット」の食生活にチームは強い関心を示した。イヌイットの人々はアザラシやセイウチなどの海獣、魚と鳥類を食べているが、厳寒の土地ゆえ野菜、果物、炭水化物の摂取は少ない。それが守られていた頃はガンや糖尿病を発症する者がきわめて少なかったが、様々な食文化に触れるようになってからその神話は崩壊してしまったそうだ。ちなみにイヌイットは日本人と同じモンゴロイド系である。
またその研究ではサプリメント業界で注目される「オメガ脂肪酸」と呼ばれる成分、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)なども注目された。そのうちDHA、EPAはω-3(オメガ3)の脂肪酸であるが、「アラキドン酸」はリノール酸を原料として体内で合成されるω-6(オメガ6)系。いずれも医薬健康食品業界が血中コレステロール値や中性脂肪値の低下、脳機能向上、細胞保護、免疫機能強化などの効果を謳ってサプリとして販売しているものの、アラキドン酸の過度の摂取はアレルギーを悪化させたり大腸ガンや心臓病のリスクを高めることがわかってきたためだ。
ω-3にはほかにエゴマ(αリノレン酸)、亜麻仁油(アマニ油)、シソ油などが含まれ、ω-6には紅花油、ひまわり油、コーン油、ゴマ油などが含まれる。理想はやはりω-3を多く摂取すること。しかし欧米型の食生活ではリノール酸が中心となることから、ω-3脂肪酸よりω-6脂肪酸の摂取が圧倒的に多いという。祖先の食生活を考えると、やはり日本人は“魚・野菜・穀物が中心”という食生活が健康長寿の秘訣ということになるようだ。
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(TechinsightJapan編集部 Joy横手)