不妊治療の技術は日進月歩とはいえ、お金もかかるうえに成功率があまり高くないことは大きな問題であった。だが中国のある権威が進めている研究の内容には驚くばかり。なんと「研究室で作りあげた“人工精子”で妊娠する時代が来る」というのだ。
中国・南京医科大学で20年にわたり生殖医学、特に精子・卵・胚の形成メカニズムについて研究を続けてきたJia-hao Sha博士。国際的に評価の高い文献を60以上も発表してきた不妊症治療の権威ともいえる同博士が、このほど幹細胞研究者向け専門誌『Cell Stem Cell』に興味深い論文を発表した。英メディア『mirror.co.uk』が伝えている。
Sha博士の共同研究チームが発表したのは「幹細胞関連技術の発展により、人工的に精子細胞を完成させる研究はすでに進んでいる。マウス胚から取り出された幹細胞を使った精子細胞による受精も成功した」というもの。2011年には日本の研究者が人工の精子が睾丸内に注入されると生き生きと泳ぐ様子を発表したが、その研究をさらに進化させたもようだ。生命倫理学も気になるところだが、博士は「不妊につながる問題が男性側にあるケースでは、最新不妊治療をもってしても解決できないことも多い。彼らを救うための最終手段だ」としている。
実験では、精巣にそっくりの環境の中で男性ホルモン(テストステロン)にさらして完成させた精子細胞を、体外に取り出しておいたマウスの卵に顕微鏡で観察しながら注入したと同博士。これは「顕微授精(ICSI=細胞質内精子注入)」と呼ばれる体外受精のひとつの方法で、ヒトでは受精卵の細胞分裂がはじまった胚が子宮に移植されることになる。
ただし人工的な手を加えた命は弱く、病気がちという印象が一般的にはあり、せっかく誕生しても細胞分裂、染色体の数や構造、生殖機能などに不安を残すようでは元も子もない。「すべての面において検査をクリアしている」と主張する同博士であるが、英国の専門家らは一様にその信憑性や安全性を強く疑っているもよう。実験の結果を正しく立証する必要があるとしている。
また最先端の不妊治療技術は一大ビジネスへと発展する可能性を常に秘めており、それだけに「興味深い実験でさらなる研究にも期待するが、安易に人工精子という方法を認めてしまってはならない」という声も多い。その一人がエジンバラ大学で生殖医学の研究にあたるリチャード・シャープ教授。「もしもDNAに問題が生じるのであれば、その個人の健康ばかりか次世代にも影響が出るということをもっと重く考える必要がある」と警鐘を鳴らす。
ちなみに世界で初めていわゆる“試験管ベビー”と呼ばれる赤ちゃんが誕生したのは1978年のこと。女性で現在も健康であり、自然妊娠で2人の男児がいるという。
出典:http://www.mirror.co.uk
(TechinsightJapan編集部 Joy横手)